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彼らは、天賦の才を授かった人たち。申し子のような。
それに、ハルは将来の夢を持っていたはずだ。いつだか、シュンに将来の夢を訊いたとき、「獣医さんになりたい」と、彼は即座に答えた。
「獣医さんにはならないの?」と訊いてみた。そしたら、今度はこう言った。「一つに絞る必要はない。夢は多いほうがいい」
当時の僕は、獣医の意味が分かっていなかった。動物に対して、メンテナンスを行う仕事であるなら、エンジニアでなくて、何で獣医なんだろう。
「本物の動物と向き合う方が、面白そうだから。機械と違って、彼らは生きているんだよ。俺たちと一緒」
機械相手の方が楽だろうに。それに、本物はここにはいない。いたとしても、研究用として秘密裏に飼育されているという都市伝説があるくらい。
シュンのことだから、映画を観て感化されたのかもしれない。とにかく、シュンは目標や夢を持っている。
幼い頃の夢が叶ったほんの一握りの人も、夢半ばの人も、絵空事だろうと、何かに夢中になれる人ってやっぱりカッコいい。
シュンは僕を連れ出した。「未開の地を探しに行こう。地図にない、誰も知らない場所に」
こんな狭い世界で、開拓されていない場所なんてない。
懐疑的になっていた僕に、彼が見せてくれたのは一本の映画だった。
「俺、この監督好きなんだ。なんてことない演出とか、セリフの言い方にもこだわる人でね。凝った作品が多いんだ」
「未開の地を探すんじゃないの?それに、映画を撮るって…」
「そうでも言わなきゃ、君を動かせないと思ったんだ」
シュンの言う通りだった。
僕は映画を通して、僕を前進させるキッカケとなった、ネイサン・ニシタニの作品と出会うこととなった。
「それに、映画を撮りたいって言うのは、嘘じゃないよ。俺この監督好きなんだよね」シュンは付け加えた。