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元チームメイトからは、逃げたと思われているみたい。
サッカーを辞める前に、シュンに相談した。僕を一番に理解してくれるから。
「馨仁が決めたのなら、いいと思うよ」って。ほら、やっぱり。
とは言え、サッカーを辞めてから、他に打ち込めることがなくなった。
何に対してもやる気が起きなくなり、全部どうでもよくなった。部屋に引きこもりがちになって、休みの日は昼夜逆転の生活を送るほどになった。
僕は元々、コミュニケーションを取るのが苦手だ。サッカーは、他人と接点をもつための手段でもあった。
共通の話題さえあれば、仲良くなれる。そう思って、人気のあるサッカーを習い始めた。
最初はプロとか意識していなかった。みんなで和気あいあい出来ればいい。
「君、才能あるね。もっと上のクラスに行きなよ」
コーチからの一言。僕は本気にした。
彼がどこまで僕の才能を見抜いていたのか、もしくは、なんとなくで勧めたのか分からない。
上手な選手たちに引っ張られ、僕は技術を磨いた。もちろん練習は辛かったけど、それ以上に自分の成長を感じるのが嬉しくて。
もっと、試合に出たい、勝てるようになりたい。
熱くなりすぎていた。後悔している。僕も悪い部分はあった。
励ましてほしい訳じゃない。きっかけがあれば、いつもの生活に戻るのに。
そんな僕を見かねてか、ハルは毎日僕に声をかけてくれた。
ハルは「一緒に映画を撮ろう」って言い出した。突拍子もない話に、呆れてしまった。
芸術分野を極めるにしても、芸術家には飛び抜けた才能と、センスも必要になってくるのだろうから、尚更無理だ。
才能は一種の呪いである、という意見に僕も同意する。
芸術家は、宿命を背負って産まれてくるのだと思っているから。