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事故でもあったか。関わりたくないから、さっさと用を済ませて帰ろう。塞ぐように立っている彼らの間を抜ける。
「自殺するなら外側でしろよ」「このタワマン、事故物件扱いになるのかな?」「ダメだ、顔が潰れてて特定めんどい」
ちらほら不謹慎なセリフが飛び交う。どうやら俺は、飛び降り自殺の現場に出くわしたらしい。
確かに、外側に行けば、餓死か他殺かで亡くなるかもしれないし、後片付けも楽なのかも。
とはいえ、死に場所くらい選ぶ権利はある。
あんな高いところから身を投げれば、想像を絶する痛みなんだろうな。
落ちていく最中、どんな心境だったのか知りたくもない。
家族はいたのだろうか。もし俺が自殺したら、悲しんでくれる人は何人いる。
ここにいる人達のように、写真を撮り、裏サイトにでも掲載した挙句、小銭稼ぎに使われるのかな。
想像に
非日常を謳い、密かに楽むコンテンツに、一定の需要があるなんて、信じがたいことだ。
大々的に報道されなくても、自殺した人の身元は、誰かが調査して公開してくれる。
親や学校から、ゲートによって内と外に隔たれた、経緯や背景をなんとなく教わった。
彼らに、ゲートができて以降、治安は良くなったか訊くと、犯罪そのものは著しく減った。
しかし、自殺者や失踪者は増え続けているから一概に言えない、と口を揃えて濁す。
未だ、ストーカーやイジメなどグレーとされている部類は、根絶されていない。それを暗に言いたいのだろう。
たとえ悪口を書かれたことで、心神喪失になったと訴えても、個人差があるため直接的な原因になったと認められないこともある。
権利に対しても対価を支払わなければいけない。平穏に暮らしたいのなら、火を起こさないこと。
端的に言ってしまえば、お金さえあれば何とでもなる世界になった。
ゲートは資源の占有の他に、権力者たちが国民をコントロールできるようにしたい、という思惑もあるとされる。