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「ねぇ、馨仁。『喧騒のディスパレーション』って、確かデビュー作だったよね?まだ取り扱っていなかったの?」

「いいや、同じ本でも繰り返し議論するとこがあるんだよ。ほら、新しいメンバーとか入ってくるから」

「なるほど。君からしたら、もう飽きちゃったんじゃない?」

「そんなことないよ。時を超えてもなお、新鮮であるから、エヴァーグリーンとされているのさ」

 馨仁の片手には、たまごサンドが半分以上残っている。

俺はとっくに食べてしまったというのに。
まぁ、一つのことに熱中してしまうところも好きなところだ。

 その手に触れてみたい。首の辺りでも大丈夫。首筋も美しくて好きなんだ。
いや、実際触れたとしても、せいぜい肩や背中くらいだな。

 この時代、無闇に人と関わりを持つのは危険だと、言われながら育った。

リアルな姿と本名を知っている人は、親戚と親の知り合い。学校は在宅だし、同級生の顔はうろ覚え。
馨仁との関係を壊さないようにしないと。俺には、何も残らない。

 ゲームして、うたた寝して、夕食は明後日の読書会の段取りを訊きながら、適当に済ませた。

帰り道、雪は止んでいた。彼はいつも、俺の姿が見えなくなるまで手を振ってくれる。
深夜にお腹が空くといけないから、パンか軽食を買いに行こうと、回り道することにした。

すると、タワーマンション通りに、珍しく人集(ひとだか)りが出来ていた。
「ここから先には立ち入らないでください」と規則正しい間隔で、機械音声が流れてきた。

 ロボットの白い頭が半分はみ出していた。警告灯の光が回っている。

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