63.求められた強さ
「な、なに言ったの」
何を言われたのか、わからなかった。
思いだしてみる。
「それがどうした。
俺は足を折られた?
な、何なのあんたたち」
口が、うまく動かないけど、なんとか言い返せた。
そしたら、どなられる。
「何がおかしい!!
痛みにたえ、そこから立ち上がることこそ、名誉だ! 」
その返事に。
「ちょっとだけ、共感はできるよ」
本当に、少しだけ。
訓練中のミスとか、仕事上仕方なくなら、まだ折りあいがつく。
「でも、それを他の人になにかをさせるため強いるなら、それは敵だ。
そう教わったよ」
わずかな対話時間は、打ち切られた。
「お仕置きだ! 」
振り落とされる黒い巨人のパンチ。
迷いはなかった。
「なんで?!
頭を叩きつづけると、頭のなかでアイディアがパチッと合わさって、良いアイディアが生まれるとでも言うの?! 」
閻魔 文華、あんたが求めるものは、こんなものだったのか。
どんな目にあっても疑問を持たない。
ケガしても、ミスがあっても。
ただひたすら自分に従う。
そんな兵隊が、ほしかったのか!
あれ?
そもそも、ここに閻魔 文華がいないのって・・・・・・。
「そうか」
安菜、なにか気づいたの?
「こん棒エンジェルスが現れたのは、私たちの救助訓練。
あいつらは、一人でも多くの人を痛めつけるために、この時を選んだ!
はーちゃんは、そのスケジュールを調べるためだけに送り込まれたんだ! 」
その結果が、むやみやたらに街を破壊する、あの戦いなんだ。
人の命も、街の歴史とか生活とかも、どうでもいいんだ。
「うさぎさん! 」
はーちゃんが呼んだ。
私をしかるような声で。
「アイツの足を見てください! 」
巨人の足を見た。
かろうじておさえこんでる、ウイークエンダーより、さらに大きな足。
それが、ひび割れていた。
しかも、ふくらんでる?
それにつられて私たちのキャプチャーにも、ひびが走ってる!
あれは、あの現象は知ってる。
「魂呼さんの腕をうばったときと同じだよ! 」
安菜も気づいた。
「力を逃げ場のないところで高めつづけてる! 」
アイツの足も、動けないわけじゃなかった。
中から膨らむことで、キャプチャーを破ろうとしてる!
「このままだと、両方壊れちゃう! 」
私は、両手を失ったばかりの魂呼さんを思った。
一度、距離をとる。
「あんた、覚えてくれてたんだ」
「今、そんなこと言う?! 」
怒られた。
「大問題だよ!
あんなことが起こらないよう、がんばってくれたのは、あんたなのに!
それを潰したのは、私・・・・・・!
ごめんなさい!! 」
ほっぺたが熱くなる。
涙なのか、興奮で体温が上がったのか。
「あんたって、こういう時にめんどくさいね」
これは生まれの良さゆえだい!
「ウオおお!! 」
あきらめることなく、黒い巨人はキャプチャーごしに拳を振り下ろす。
いえ、拳と言っていいのかな?
2本の腕は、もう間接や骨格と言った人間的なイメージを失っていた。
もう? ムチだ。
丈夫でしなりやすく、ふり回せばその先は音速をこえると言う、武器になってる。
キャプチャーへも、深くささるようになった。
何度もくりかえすうちに、ささるほど迫る!
くやしい。
魔法炎の質は、あっちが上なんだ。
私はよけた。
ウイークエンダーだけが、すばやく動けるキャプチャーも、もうすぐ維持できなくなる。
「キャプチャーのメッセージ表示を停止してください」
音声入力。
私が、止めた。
「もう限界だよ。
全力で離脱するから、衝撃に備えて」
安菜は「わかった」、はーちゃんは「わかりました」とだけ言った。
すばやく駆動系をチェックして、足をちぢめる。
ジャンプの体制になる。
「5、4、3ーー」
巨人のムチが、もう一度ささった。
だけど、まだ距離がある。
それでも巨人はあきらめない。
右腕を突き刺したまま、左腕を振り上げて、下ろす!
ドーンと、ウイークエンダーの右肩が炸裂音をあげた。
足がめり込む!
キャプチャーで水が取り除かれた川底が、派手にはね上がった!
完全にへたり込む体制になってしまった!
そして、見た。
巨人は、ささったムチの中に、自分のムチを差し込んでいた。
先のムチの中を、抵抗なくしなるムチが、ウイークエンダーの右肩をとらえたんだ!