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62.奪われたもの

 安菜が説得を試みるなら。
「こちら、ウイークエンダー・ラビットのパイロット、佐竹 うさぎ! 」
 私がすることは、1つ。
「これより、巨人への説得を試みます。
 ウイークエンダー・ラビット方面への攻撃は控えてください」
 と、一斉通信でお願いしてみた。
 けど、どれだけ効果があるんだろう?
 みんな、殺気立っている時に。
 こっちに怒りが向くかもしれない。

「私たちは、あなたたちの立場をちゃんと知りたい。
 そして、無事に帰っていただく方法を考えたい」

 安菜の声は、まちがいなく巨人にとどいてる。
 音量も、巨人サイズ。
 なのに巨人は、あばれつづけてる。

「そのための、こん棒エンジェルスの皆さんにとどく言葉を考えたい。
 あなただから伝えられる言葉があるのではないですか? 」
 どこに?!
 と飛びだしそうになる怒りの言葉をグッと飲み込んで。

 そう言えばそう言えば。
 ラポルトハテノでの会議のあと、私が朱墨ちゃんに語った言葉。

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

「世界が代われば、ルールも違う。
 それがほんのわずかな雰囲気の違いでも、相手の世界では「話を聞く価値なし」とされちゃうかもしれないよ」

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 自分が言ったとき、考えてたイメージ以上のことを、安菜はやってるんだ。

 それにくらべて私は。
 スゴいや。素敵だ。
 そのていどのほめ言葉しか、とっさにでてこない。
 はあ。
 教養がないな、私。

 グシャグシャと不愉快な、かき混ぜるような音が響いてきた。
 巨人が、私たちのキャプチャーを引きちぎっていた。
 背中からしがみついたはずなのに、こっちを見下ろして!
 逃げて、またうしろを取ろうとした。
 だけど、巨人の上半身は、私たちを見下ろしつづけ、拳を落としつづける。
 そうだ。
 相手は魔法炎、エネルギーだから。
 形は自由に変えれるんだ。

 こっちは、何をするにしてもキャプチャーが割れる前に移動するしかなくなった。


「帰る条件は、すでに示してるではないか!
 バカ者! 」
 巨人が、どなる。
「どういうことですか? 」
 安菜の質問に、キャプチャーを殴って答える!
「閻魔 文華さまは、どこだ!
 それを示せ!
 どこへ行けば良いか、言え! 」

 閻魔 文華。
 さま、をつけるの?
 不愉快なイメージしかない名前。
 でも、はーちゃんを送りつけたのは、閻魔 文華のはずだよ。
 その後に、行方不明になったの?

「それはラッキーですね」
 それでも、安菜は冷静だ。
「私は、その閻魔 文華を研究してる者です。 
 ですが、残念なことです。
 地球をでてからの彼女の行き先については、だれも把握していません」
 一瞬、巨人のパンチが安菜の言葉を聞くためか、止まった。
「ふざけるなぁ! 」
 だけど、すぐまた殴りはじめた!
「それをするための道は、すでに用意した!
 見ただろ! あのこん棒を!
 破滅の鎧も! 」

 なんだ、何言ってるの?!
 "弱き者たちの念"てのは、MCOのことだよね。
 だけど、それがアイツらの思い道理に私たちを変えていく力?
 そんなの、あれのこと?
「はーちゃんに。
 失礼しました。
 破滅の鎧が、異能力をもたない貴族とだけ付き合うようにセットされてた、そのことでしょうか? 」
 安菜のの答えが、巨人は気に入らなかった。
「あれに込められた弱き者たちの念が、お前たちを鍛えてくれるんだぁ! 」
 さらに怒りを爆発させてきた。
「鍛えられた機械文明なら、科学技術が進歩するはず!
 何も進歩していないと言うことは、怠けてたと言うことだ! 」
 
 なんて身勝手な言い分!
 こん棒を空から落としつづけて、縁もゆかりもないMCOが地球に満ちると、どうなるの?!
 つごう良く地球の住人と結びついて、アイツらが喜びそうなもの、産みだされるの?!
 怒りが、止めれない。
「あなたたち、閻魔 文華が何をしたか、知らないの?! 」
 叫んでしまった。
「ちょっと、うさぎ?! 」
 安菜があわてた様子で止めてくる。
「黙っててよ! 」
 かまうもんか!
 侵略者に、好きにさせるくらいなら!
「私の、ウイークエンダー・ラビットのことを知ってるなら、落人 魂呼さんのことも知ってるよね」
 そうだ。
 私の上司、プロウォカトルの長官だよ。
 そうでなきゃ、おかしい!
「あのひとは、魔法炎に閉じこめれて、深い海のそこに放り込まれてんだよ! 」
 そうだ。
 保育園時代だったけど、いまでも覚えてる。
 今も学校からいつも見えてる海、富山湾。
 一番深いところで、1000メートルをこえる。
 そこからの水を押し上げた大爆発を。
 太刀山山脈を視界から消したあの光景を!

「魂呼さんは腕から強力な光線をだせる。
 その光線をだせないと魔法炎を破壊してでれない!
 でもだしたら、海水は爆発して、魔法炎は破片となって襲ってきた」
 そのころ、魂呼さんは無敵で、強い味方で、ウイークエンダーを操る私も、いつか並び立てる目標だった。
 だけど、それが全て壊された。
 私たちは、身近な味方の裏切りで壊れてしまう、弱い存在だったんだ。
「閻魔 文華に両腕を奪われた! 」

 これを聴いた、巨人の答えは。
「それがどうした! 」
 ・・・・・・え?
「俺は足を折られた! 」 
 かわらず、拳を振り下ろす。

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