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最近見た物語は、恋愛ものだった。
様々な障害を乗り越え、全てを捨てて生きようとするカップルの物語。

最後の最後で、二人は無事結ばれる。エンドロールが終わってからはどうなったかって。その続きは、各自の自由だ。

 映画を観ていたら、母親のことを思い出した。俺の母親はしょっちゅう愚痴をこぼしていた。

「あーあ。私もお医者さんと結婚したかった。医療関係の仕事をしていたから、チャンスはあったのよ」

じゃあなんで父と結婚したのかと訊くと、「その時の勢い。結婚はギャンブルのようなもの」って返してきた。

大胆に、勢いで行動に移せばいいし、慎重に地道に歩いていけばいい。

統計では、人は1日に1万回以上の選択をしているらしい。

その度に時間は止まってくれない。重要な分岐点に直面した瞬間でさえも。

時間は唯一平等で、その中で後悔のないように生きるためには、行動し続けるしかない。
生前の母親からもらった言葉。

最初は本気で後悔しているのだと思っていた。だけど、満更でもないと言うか、結局のところ、一緒になった相手が父で幸せだったのだろう。

父は先代から受け継いだ資産があり、堅実な性格だから溶かしたりしないで、しっかり運用してくれている。

そのおかげで、まあまあ裕福な家庭に産まれた。

とても裕福、ではない。比べだしたらキリがないけど、一生働かなくていいと、保証されている資産家ではないことは確かだ。

 金が全ての世界で、母は父の人間性に賭けたのかな。もしそうなら、正解だったかもしれない。
母が言及していた、医者の奥さんと会ったことがあるけど、いつも(うれ)うような顔をしていたから。

「そういえば」と馨仁が言う。「シュンって、ヴァーチャル用の名前、デフォルトのままだったよね?」

「そうだけど?」

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