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 すぐに馨仁(けいじ)が出迎えてくれた。
そばかすが特徴の俺の幼馴染。そして、とても大切な人。

「ごめん、少し早く着いちゃった」

「大丈夫だよ。さ、上がって。外寒かったでしょ?こんな日にありがとうね」

「いいって。そうだ、コーヒーとたまごサンド買ってきたんだ。一緒に食べない?」

「うん、食べよう!」

 彼は同い年とは思えないくらい、無邪気に笑って、鼻歌を歌いながらリビングへ移動した。

馨仁と両親が映った写真を眺める。この頃は、何も考えなくてよかった。
程よい温度になったコーヒーで、両手を温める。

「ねぇ、シュン。『喧騒のディスパレーション』読んでくれた?」

「もちろん。と言っても、まだ半分くらいだけど…」

「それでもいいから、今度の読書会、君も参加しない?」

「行ってもいいけど、話についていけるかどうか…」

「平気さ。みんないい人だし、僕もいるし」

君がそう言うのなら、俺は断れない。

「分かった。参加するよ」

「ありがとう!」

 『喧騒のディスパレード』を(あらわ)したネイサン・ニシタニは、ミステリー界隈では知らぬものはいない有名人。

トリックやストーリーの完成度はもちろん、重厚な人間関係の描写が特徴で、出版した本はどれもベストセラーになっている。

馨仁はすっかり、彼の虜だ。

 「君も読んでみなよ」って勧められて読み始めたけど、そうでなければ一生手をつけなかったかもしれない。

彼の作品には暗い印象を持っていたから。

ただでさえ、世知辛い現実を生きているのに、フィクションの中くらいハッピーエンドであってほしい。

 映画鑑賞する時も、なるべく明るそうなものを選ぶ。

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