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 ひんやりと頬が湿った。これが初雪であることは、後から知った。何十年ぶりの降雪とかで、ニュースが騒いでいたから。
どうりで寒いと思った。

すれ違う人は数えるくらいしかいない。
もっとも、人通りに関しては、夏だろうが、冬だろうが関係ないような気がするけど。

 せっかくの淹れたてのコーヒーが台無しになってしまう。彼の好物のたまごサンドも一緒に持ち帰った。喜んでくれるといいな。

 これから彼に会えるのだと思うと、自然と顔が上に向いた。
楽しいときとか、嬉しいことがあると、なぜか上を向いてしまう。

待ちに待った再会って訳じゃないし、3日前にも遊んだばっかりなのに、俺は楽しみだって思っている。
相手も嫌ではないんだと思う。でなきゃ、断られている。そもそも、今回誘ってくれたのは、向こうからだ。

 当たり前の話だけど、俺が持っているこの心地の悪い感情に、誰一人として気づくことはない。俺と接点がない人達にとって、俺はただの背景に過ぎない。

どこにいっても、ロボットが俺達の代わりに仕事をしているから、余計にそう思うのだろう。

さっき立ち寄ったカフェで、カウンターに立ってくれていたのが人だったら、きっと顔見知りになっていた。

 ロボット相手に「今日は特別な日だから、とびっきり美味しく作って」なんて言ったところで、出てくるものは予めプログラムされた、決まった味。

大半の人は、むしろそっちの方がいいという。馴染みすぎて、人の手が入ると食べられないと言った人もいる。

 赤いポインセチアのリースが飾られてある、白い扉の前まで来て、彼に連絡する。

「シュン、いらっしゃい!」

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