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―シュン・クマル?ハルのことを言っているのか?
「…そうですか。あいにく、僕には関係のないことです」
「あぁ、そうだったな。ま、せいぜい気をつけろよ」
古傷の男は、透日の肩に手を乗せた。
ハルが、殺人犯…?シュン・クマルが、ハルの正体なのか。いや、デタラメを言っているんだ。人違いに決まっている。
シュン・クマルが、ハルと同一人物である証拠はない。古傷の男が、一方的に言っているだけだ。
透日は必死に平性を装う。目を閉じて思い返す。
彼が人を殺めるなど、できるはずがない。彼の人間性は、自分が一番よく理解している。
本当に?
透日は首を降る。絶対に、ハルは殺人犯ではない。
古傷の男が何やら話しかけてきたが、記憶がない。仕事をやりきれたのかさえ、
「殺人」の二文字が
真っ赤な血と、露華たちの笑い声。鉄パイプで殴り合う少年少女。都の細い腕の、なくならないアザ。
ハルとシュン・クマルが同一人物で、古傷の男が言ったことが真実だとしたら。
もし、帰った時彼がいたら、なんて声をかければいい。
これから、どう接していけばいい。
何もかもに蓋をしよう。たまに内側に遊びに行って、これからも一緒に暮らそう。いつも通り。変哲もなく。僕は異常者だから、それが出来る。
しかし、変わるのだとしたら、今しかないと思った。
届かなくても、胸を張って唱えよう。僕たちは、異常者ではないと。
露華が「人生に意味はない」と言うのなら、自分の身に起こる全てのことに意味があるのだと証明しよう。
誰かの指示通りに動いて、誰かの言ったことを信じるだけの人生と、決別しなければいけない。向き合わなければいけない。自分のために。
透日が知っている、親切で優しいハルの姿は、たった一部分でしかないのだから。