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第1話:帰ってきた日常①

 その日は長い長い夢を見ていた、異世界に召喚されて世界を救った夢だ。

「やたら現実感ある夢だったなぁ……」

鳴り始めた目覚ましを止め、洗面所で顔を洗い制服に着替える、これがいつもやっているモーニングルーティンだ。

「母さん、おはよー」
「あら優希、今日は早いのね」
「そうかな? いつもと同じくらいだと思うけど?」
「嘘言わないの。毎朝、 耀(ひかり)ちゃんを待たせてるじゃない。せっかく早く起きたんだし、たまには優希が待ってあげなさい」
「はーい」

母が作っていてくれた朝食を食べ玄関へ向かう。
靴を履き外に出ると正面の家から、幼馴染の 水城(みずしろ) 耀(ひかり)が出てきていた。

(この顔見るのも久しぶりだなぁ……ってあれ? 何で今久しぶりとか思ったんだ?)

「おはよう、耀」
「おはよー優希、今日は早いね」
「なんか目が覚めてね、せっかくならば耀を驚かしてやろうと」
「へぇ~いうねぇ……じゃあ明日も期待しちゃおうかな?」
「おう、任せてくれ!」

互いに軽口を交わし通学路を並んで歩き出す。
耀とは保育園で初めて出会って以降、家族ぐるみずっと一緒だ。
ハーフなのもあって、昔はお人形さんみたいで可愛らしかったのだが、今では北欧風の美人に育っている、そして入学直後の秘密裏に行われた男子の人気投票で1位をかっさらった。
それもあってか毎月2~3人から告白されている程の人気者だ、因みにどんな相手からの告白を断り続けてるからか、俺と付き合ってると思われて入学当時はやっかみを受けた。
まあ常に一緒に居るから、半年も過ぎた頃には夫婦とか言われてたが、特にお互い気にしていなかった。

(なんか、今日の耀、いつもより可愛く見えるな……なんでだ?)

「そうそう、今日の授業ってなんだっけ?」
「体育が1~2限、国語と数学をやってから。お昼挟んで音楽と家庭科よ」
「うへぇ朝から体育かよ……てか、月曜の朝から体育があるのか……」
「今日は一段と暑いみたいだし、水分忘れないようにしないとね」
「はーい」

このやり取りも5年振りか、あれ……5年?

「どうしたのそんなニコニコしたり考え込む様な顔して」
「あーいや……なんでもない」
「ふーん、なんか変な優希」

まるで自分が、〝何年〟もこの通学路を歩いておらずとても久々に歩いている、そんな違和感を覚えつつ今日も学校へ向う。


◇◆◇◆◇◆◇◆
「さて、今日の体育は男子はサッカー。女子はテニスだな」
「「「「「はーい!」」」」」

体育の先生が思い付きの様に言う。

「サッカーかぁ……久しぶりだな」
「なんだよ上凪、先週やったじゃないか!」
「あれー? そうだっけ?」

名前の思い出せないクラスメイトが声を掛けて来る、何で俺懐かしいと感じたんだ?

「まぁ、上凪はあんまり運動苦手だもんな」
「そうだぞ、怪我したら。水城さんが悲しむからな」
「いやいや、耀はその位じゃ……」
「「いや、悲しむだろ」」
「むしろ、心配して飛んで来るだろ」
「うんうん」

なんだかクラスメイト達が一致団結して頷いてくる、そんな事は無いと思うんだけどなぁ……。

そうして準備体操の後、始まったサッカーだったが。

「まぁ、こうなるよな……」

俺は右ディフェンスでボールが来るのを待っていた。

「確か、オフサイドってあるし一応味方の 位置(ライン)と合わせとくか」

なんとなくの知識でそんな事を考えていると、ボールが飛んで来た。

「よっしゃ!  上凪(かみなぎ)が相手ならラクショー!」

相手は名前は思い出せないがサッカー部のやつだ(さっき言っていた)。

(確か、見てた感じだとボール持った相手に近寄って……)

相手がボールを受け止め、足を止めたとこにぴったりとくっつく、抜かせない様に相手チームのディフェンスがやっていたことを真似る。

「えっ? おまっ、 運痴(うんち)なはずじゃ!」
「良くわからないけど、さっきそっちがやってるの見たから!」
「クソッ! だったら!」

相手が右側に抜けようとするそれに追い付こうとして、相手が目の前でくるっと回った。

「えっ?」
「へへっ! 流石についてこれないだろ!」

抜かれた後はそのままシュートされ点が取られる。
そして、その動きに女子と控えに居たサッカー部の男子達からブーイングが飛んで来る。

「ずるいわよー、そんなテク使うの!」
「そうだそうだー向こうは帰宅部なんだから手加減しろー」
「んなぁ!? い、今のは咄嗟にやっちまったんだよ!」
「ルーレットなんか初心者が反応できるか!」

とは言ってもヤジを飛ばしてる部員たちも本気ではない様子。

「どんまい! どんまい!」
「いやー、あんな動きされたら無理だって」
「仕方ないよ、向こうはサッカー部だもん」
「それにしてもどうした上凪? めちゃくちゃ素早かったぞ?」
「んーなんか身体が軽かった」

そう言うとポカンとされた、まぁ俺もいきなりそんなこと言われたら、ポカンとするな。

「まぁ、今ので覚えたし多分できると思う」
「「「へ?」」」
「ほら! そこ固まらない。始められないぞー」
「あっ、はーい」

そうして皆がポジションに戻って行った。

それから、再度さっきの様にサッカー部の彼の元にボールが飛んで来た。

(さっきのやってみるか……)

走り出してから空中で割り込み、ボールを受け止める、そのままさっきの動きを真似る。

「ほいっと」
「なっ!?」
「えっ!?」

そうして一人抜き去り、ドリブルをする。

「ちょ! 誰か止めろ!」

抜き去られた彼の言葉に皆が動き出す、それから一人もう一人と抜く、目の前にはキーパーが居るのみだった。

「優希! 思いっ切り蹴りなさーい!」

シュートしようとしたら耀の声が聞こえたので、思い切り振り抜いた。

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