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第二十五話「フランクの過去」

 その晩、ジャックはシエラに連れられ、彼女の家までやって来ていた。
 ダグラスが最期に残した言葉の真相を確かめなければならない。
 シエラは家の扉を開け、中に入った。
 ジャックもその後に続く。
 すると、そこにはフランクがいた。

「おう、おかえり……って、兄ちゃんじゃないか!」

 フランクは驚きつつも、嬉しそうに微笑んだ。
 だが、ジャックとシエラは沈んだ顔をしていた。
 その様子を見たフランクは、顔をしかめた。

「……何かあったのか?」

 フランクの問いかけに、ジャックは重々しく口を開いた。

「ダグラスさんが亡くなりました」
「……なに?」

 フランクの顔はみるみるうちに険しくなった。
 そして、ジャックに詰め寄った。

「どういうことなんだ!?」
「セドリック・ローレルに殺されたのです」
「……殺されただと?」

 ジャックは何が起こったのかを全て話した。

「ダグラスさんは最期にこう残しました。『エンファーを研究していた責任者はフランク』と」
「……そうか」

 フランクはその一言以外、何も言わなかった。
 しばらく沈黙が続いた。
 普段は能天気なフランクも、今ばかりは暗い雰囲気を漂わせている。

「まぁとりあえず座ってくれ」

 フランクは食卓を示した。
 ジャックとシエラは言われるがままに座った。
 フランクも椅子にどっしりと腰を下ろした。
 そして、真相を語り始める。

「あれは、俺がまだ帝国軍の魔導士だった頃の話だ。当時、俺の妻が同僚だったもんで、二人で研究に没頭する日々を楽しんでいた。そんなある日、急に参謀本部から呼び出された。そこで命じられたのが、ある女の先天的魔術を軍用魔術に改変させるという研究だった」
「……女?」
「ああ。帝国軍がその女の先天的魔術を使えるようになれば、帝国は絶対的な力を手に入れることができる。それが国王の考えだったそうだ」
「その先天的魔術が……」
「そう、エンファーだ」
「じゃあ、その女の名前ってまさか!?」
「クレア・ダンストリッジだが……。それがどうかしたのか?」

 これを聞いて、ジャックは言葉を失った。

(どうして……どうして母上が……)

 まさかクレアがこの話に関わっているとは思いもしなかった。
 一体どういうことなのだろうか。
 考えれば考えるほど、訳が分からなくなった。

「まぁなんやかんやで俺は見事、エンファーを軍用魔術にしてみせた。これで帝国のため、軍のためになると思った。だがその後、国王がリエ村をエンファーの実験場として利用した。俺の研究が成功さえしなければ、あの惨劇は起こらなかった。俺は悔やんでも悔やみきれなかった」

 フランクは拳を強く握りしめ、グッと唇を噛みしめた。
 そして、話を進める。

「そんな中、妻は国王の非道さに怒りを抑えられなかった。あいつは正義を貫こうと、元老院にまで訴えようとした。俺は必死に止めた。そんなことをすれば、反逆罪とみなされるかもしれない。だが、あいつは俺の言うことを聞こうとしなかった。そして、恐れていたことが起きた」
「……恐れていたこと?」
「どういうわけか、妻の行動が国王の耳に入っちまったんだ。当然、ただで済むはずがない。国王はすぐさま妻に刺客を差し向けた」
「それじゃあ、お母さんは……」
「殺されたんだよ。口封じのためにな」
「そんな……だってお母さんは不慮の事故で……」
「とてもじゃないが、まだ幼かったお前には言えなかったんだ。許してくれ」

 フランクは頭を下げた。
 シエラを見てみると、彼女は静かに泣いていた。
 その涙は、母親の死の真相に対する悲しみなのか、あるいは怒りなのか。
 考えるだけで、胸が締め付けられるような思いになった。
 だが、ジャックにはまだ聞かなければならないことがあった。

「それで、クレアという人はどうなったのですか?」
「それは俺にも分からん。妻が殺されてからすぐに帝国軍を辞めちまったからな。……クレアを知ってるのか?」
「クレアは、僕の亡き母上です」
「……なんだと?」
「ちなみに、ディメオは母上の魔石だったそうです。アラン学院長からそう伺いました」
「……っ!」

 衝撃的な事実に、フランクは目を丸くして驚いた。
 これだけの偶然が重なったのだ。
 そうなるのも無理はない。

「運命の巡り合わせというのは、面白いものですね」

 ジャックは不気味な笑みを浮かべていた。

「兄ちゃん……」

 フランクは顔をしかめた。

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