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第二十二話「立ちはだかるライバル」

 それからしばらく時間が経った。

「なあ、いつになったら魔物が見つかるんだ……?」

 ミシェルはくたびれた様子だった。
 そうなるのも無理はない。
 いくら森の中を探しても、まったく魔物が見つかる気配がしないのだ。

「おかしいですね。そろそろ出てきてもいい頃だと思うのですが……」
「ここって本当に生息地なのかしら」
「同じ景色ばかりで、我は飽きてきたぞ……」

 このままでは調査を終えることができず、成績をもらえない。
 ジャックたちは少しずつ焦りを感じ始めていた。
 とその時、思いもよらぬ人物が現れた。

「だいぶ苦戦しているようだな」
「げっ!」

 ジャックは思わず嫌悪感を露わにした。
 そこには、セドリックが立っていたのだ。
 おまけに三人の女子生徒もいる。
 ミシェルは険しい顔をして身構えた。

「あんたらが俺らに何の用だ?」
「おや? 貴様はたしか、俺の身分を知った途端にとんずらしていった腑抜けだな」
「なに!?」
「どうせ魔物が出たところで、またビビッてとんずらするのが落ちだろ。ハハハハ!」
「て、てめえ……!」

 今にも飛びかかりそうなミシェルを、ジャックは必死になだめた。
 すると、シエラが口を開いた。

「生徒会長ともあろう人が新入生にちょっかいかけて楽しむだなんて、下衆としか言いようがないわね」
「シ、シエラ!」

 ハンナは目を見開き、咄嗟に止めに入った。

「ほう、ずいぶんと大口を叩いてくれるじゃねぇか」

 セドリックは目の色を変え、シエラに近づいていった。
 シエラとハンナは身構える。
 その様子を見たジャックは、彼女たちの前に立ちはだかった。

「なんのつもりだ?」
「それはこっちの台詞です。シエラさんに手でも出すつもりですか?」
「この俺のことを下衆呼ばわりしたのだ。それなりの報いを受けて然るべきだろ」
「女性に手を出すような人が下衆呼ばわりされても仕方ないのでは?」
「……貴様、女の前だからっていい気になりやがって」

 激しく睨み合う二人。
 すると、三人の女子生徒が首を突っ込んできた。

「セドリック様、その男も一緒にやっちまったらいかがですか?」
「そうですよ! セドリック様にたてつくだなんて、痛い目を見るべきだわ!」
「分からせてやりましょ!」

 これにセドリックは不敵な笑みを浮かべる。

「そうだな。ここなら殺しちまったところで誰にもバレやしない」

 そして、足元に魔法陣を展開した。
 ジャックは咄嗟に杖を構える。

「こっちは暇じゃないんですけどね。魔物を見つけないといけないし」
「なんだ、怖いのか?」
「いえ、ただ面倒なだけです。なので、さっさと終わらせてもらいますよ」
「舐めた口利きやがる。そんなこと言っていられるのも今のうちだぞ」

 セドリックがそう言い放つと、彼の魔法陣から魔剣が突き出てきた。

「さぁて、模擬戦の続きと行こうじゃないか」

 セドリックは魔剣を手に取り、構える。
 一同は固唾を呑んで見守る。
 そんな中、最初に動いたのはジャックだった。

「雷神の裁き、電光石火の制裁よ!
 エレクトリシティ!」

 杖から光を伴わせながら電気を放った。
 セドリックはそれを魔剣で切り裂き、ジャックに突進する。

「うぉおおおお!!」

 すると、ジャックは杖を地面に向けた。

「我の手に虚空の刃を、エアスマッシュ!」

 そして、

 ズドオォォォォォン!!

 という轟音とともに、ジャックは空中に飛んだ。
 エアスマッシュの反動を利用したのである。
 同時に、地面が激しく揺れた。

「キャーーーーーーーーーー!!」

 女子から悲鳴が上がった。

「なに!?」

 予想外の事態に、セドリックは戸惑った。
 ジャックはその隙を見逃さなかった。

「美しき水源を操られし御魂よ!
 我に大いなる清流の恵みを、アクアベネディクション!」

 すると次の瞬間!
 空中からセドリックに向けて、とてつもない勢いの水がぶっ放された。
 いくらセドリックとはいえ、これを避けるのは無理である。

 バッシャアァァァァン!!

 と、思い切り水を被った。

「おらあぁ!!」

 そして、ジャックは空中からセドリックの顔面に強烈なキックを食らわせた。

「ぐはっ……!」

 こうして、あっという間に勝負が決した。
 やはりセドリックは物理攻撃に弱かったのである。

「す、すげえじゃねぇか、ジャック!」

 ミシェルは大はしゃぎでジャックに飛びついた。
 シエラとハンナはホッと胸をなでおろした。

「そなたの高貴なる戦いぶりに我は感激したぞ! あっぱれであった!」

 アテコは男泣きしていた。
 相変わらずどこが高貴なのかはよく分からない。

「セドリック様ー! 大丈夫ですか!?」

 三人の女子生徒は慌ててセドリックに駆け寄った。

「さぁ、邪魔者もいなくなりましたし、行きましょうか」

 と、意気込むジャック。
 だがその時、まさかの事態が発生した。

「お、おい! あれ!」

 ミシェルの顔色はすっかり青ざめていた。
 その視線の先にいたのは、バルムリケアナコンダ。
 そう、魔物である。
 しかも、かなりの強敵だ。
 とにかく巨大で、牙には猛毒がある。
 そして、動きも俊敏というおまけ付き。

「おいおい、嘘だろ……」

 ジャックは絶望していた。
 本来であれば、調査だけして帰るつもりだったのだが。
 こうなってしまっては仕方ない。
 戦うまでだ。

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