第二十一話「班別魔物調査」
昼休みになり、ジャックたちは食堂を訪れていた。
多くの生徒が集まり、がやがやしている。
「シエラ、本当にそれ食べるの……?」
ハンナはシエラの前に置かれている料理を見て、顔をしかめていた。
それもそのはず、シエラが注文したのは魔物料理だった。
これを見れば、誰でもそういう反応をする。
だが、シエラはニコニコしていた。
「もちろん! そのために昨日わざわざジャックに試食してきてもらったんだから!」
「はぁ、ジャックも大変ね……」
ハンナは溜め息をつき、やれやれとばかりに肩をすくめた。
「でも味は美味しかったそうよ! ねー、ジャック……ジャック?」
「は、はい……」
ジャックの返事は、心ここにあらずだった。
これにシエラは心配そうな顔をする。
「学院長と何か話したの?」
「い、いえ、別に……」
ジャックの頭の中は、アランから聞いた話でいっぱいだった。
とりあえず、現時点で分かったことが二つある。
一つは、ジャックには『エンファー』という先天的魔術が備わっていること。
もう一つは、ディメオがジャックの亡き母親の魔石だったこと。
(ディメオが独りでにエンファーを発動したのも、あの謎の女の声も、やはり母上と何か関係が……)
考えれば考えるほど、頭がこんがらがっていく。
とその時、ミシェルが口を開いた。
「そういえば、明日の班別魔物調査だけどよ」
「班別魔物調査?」
「あぁそうか、ジャックはさっきの授業にいなかったのか」
一体何の話だろうか。
ジャックが首を傾げていると、アテコが自分の胸をポンッと叩いた。
「では、ここは我が」
そして、咳払いを一つ。
「説明しよう。班別魔物調査とは、明日からアルフォナの森で実施される校外学習のことである。班ごとに分かれ、魔物の生態を調査するというものだ。優秀な班には、特別成績点が加算されるとのことである。以上、高貴なる者による高貴なる解説であった」
アテコはそう言うと、フンと鼻息をついた。
どこが高貴なのかはよく分からない。
「班分けはもう決まっているのですか?」
「ああ。ここにいる俺たち五人で組むことになった。よろしく頼むぜ!」
「え、ええ、こちらこそ」
こうしてジャックは、ミシェル、シエラ、ハンナ、アテコとともに班別魔物調査へ臨むこととなった。
翌日、ジャックたちはアルフォナの森の入口に集まっていた。
いよいよ班別魔物調査が始まろうとしている。
すると、キャサリンが前に出てきた。
「これより班別魔物調査を始める。知っての通り、アルフォナの森には危険な魔物が多く生息している。過去には行方不明者や死者が出たこともあった。くれぐれも油断しないように」
その言葉に、クラスメイトたちに緊張感が走った。
調査とはいえ、魔物の近くまで行くのだから危険なことには変わりない。
「だが、新入生のお前たちだけで行かせるのは、やはりこちらとしても気が引ける。ということで、今回は生徒会長を同行させることにした」
(生徒会長? 生徒会長ってたしか……)
とその時、生意気な声が聞こえてきた。
「やあやあ、新入生の諸君。学校生活は楽しめているかい?」
そこにいたのは、セドリックだった。
あの三人の女子生徒を引き連れている。
相変わらず性格の悪そうな連中だ。
「あっ! あいつら昨日の……」
ミシェルは彼らを見るや否や、険しい顔をした。
「俺はセドリック・ローレル。帝国の第二王子にして、この学院の生徒会長でもある者だ。今日は諸君と行動をともにする。何か困ったことがあれば、遠慮なくこの俺を頼ってくれ」
セドリックは自信満々に言い放つと、新入生を見渡した。
すると、ジャックと目が合った。
途端に、セドリックは目を細め、不機嫌そうな顔になった。
(おいおい、ここで絡まれたら面倒だぞ……)
ジャックの警戒心は強まっていく。
だが、セドリックは小さく舌打ちをすると、そこから立ち去った。
さすがに場所を弁えたのだろうか。
ジャックはホッと胸をなでおろした。
ついに班別魔物調査が始まった。
アルフォナの森は、根の太い木が大量に生い茂っており、うっすらと霧に包まれている。
そして日当たりが悪く、薄暗い。
まるで悲鳴のような鳥の声が、不気味さを際立たせている。
ジャックたちは辺りを見回しながら、奥へと足を進めていく。
「なんだか怖いわね……。急に魔物が出てきたらどうしようかしら……」
「安心しろ! その時は必ず俺が守ってみせる!」
「え? あ、ありがとう……」
怯えるハンナに、ここぞとばかりにアピールするミシェル。
だが、ハンナは困惑している様子だった。
正直、今のは傍から見てても痛い。
シエラもアテコもドン引きしている。
「あれ? 俺なんか変なこと言ったか?」
ミシェルはキョトンとしていた。
どうやら自覚がないようだ。
(うわー、ミシェルさんやっちまったなー。ご愁傷さまです)
そんなことを考えていると、アテコがミシェルに向かって合掌した。
「おい、なんで手を合わせてるんだよ」
「せめてもの救いとして、高貴なる者のご加護をと」
「いや、意味分からねぇから……」
ミシェルは顔をしかめた。
すると、ハンナが場の空気を和ませようと試みる。
「と、とりあえず、日が暮れる前に魔物を見つけてしまいましょ?」
「そ、そうね! さっさと終わらせて特別成績点を手に入れるわよ!」
シエラは無理に笑って、意気揚々と歩き出した。