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酸素があるから、呼吸をする。十部は、ただ本能のまま行動しているに過ぎない。
相手の気持ちを考えず行動する輩は、とてもタチが悪い。
GPS信号が彼女の位置に追いついた。
十部は彼女の姿を視認した。タクシーを降り、慎重に跡をつける。
苦労してGPSを仕込んだのに、ここでバレれば全てが終わってしまう。
顔や服装が変わっても、常に観察してきたから分かる。
桜坂は派手なデザインを好まない。大抵地味な色合いに、短い丈のスカートやズボンは使用しない。
興奮を制御しながら、早足で進む桜坂との距離を適度に保つ。
大丈夫。万が一見失ったとしても、想定しているルートがある。
しかし、桜坂は十部の思惑に反して、毎日コーヒーを買って行くはずの店を通り過ぎて行く。
脇道や曲がり角を多用する姿は、誰かから隠れるかのようだった。
—一体どこへ向かっている?
夢中になって追跡した先は、行き止まりだった。そして、そこにあるのは白く聳え立つ病院。重症患者や、危篤患者のみを受け入ている病院だった。
少なくとも、桜坂クレンにとっては、縁遠い場所だと思っていた。彼女は母親とふたり暮らしであることは知っていた。
父親の姿を見なかったのは、入院しているからなのか。
もしくは、ここに彼氏がいるのか。
中に入って確かめようとしたが、様子がおかしい。
桜坂は入り口の前で数秒立ち止まり、目元の辺を擦った。そして
彼女は、僅かな涙を流していた。