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第4話 私が過保護でいたい理由


階段から落ちて、頭をぶつけたおかげで全部思い出した。
そんな彼女を見た私の目からは、涙が溢れ出し、ボロボロと涙が流れてきた。

自作ヒロインのリイナが、今、目の前にいる!


「どうしたの?頭、やっぱ痛い?先生呼んでこようか!?」


突然泣き出した私に驚いたリイナはそう言って慌てていた。

それはそうだろう。

でも、どうすることもできなかった。

この時が一番感情がぐちゃぐちゃで大変だった。
この当時までの七年間の嫉妬の感情と、前世の三十年分のキャラへの愛着と、実物に会えたことの感激。

どの感情を取ればいいのかわからなかった。

でも結局


「リイナ……今までごめんね……」


顔をぐちゃぐちゃにして泣きながら、リイナに謝罪することを選んだ。


前世の三十年分の、自作ヒロインへの愛情は、たかだか七年の嫉妬では太刀打ちできないくらい大きかった。

でも、純粋に前世の愛情だけかと言われたら、そうでもない。

もう一つ、7年の私の嫉妬の気持ちを抑えてでも、私がこの道を《《選ばなければならない》》理由があった。

それは、ヒロインの従姉妹ルナは、悪役ということ……!

この場合黒幕?悪女?悪役令嬢?

なんでもいい。

問題は……このままだと私は、リイナ共々死ぬということ……!


私の作ったこの物語『呪いを受けた聖女』を簡単にまとめるとこうだ。


ヒロインのリイナは、聖女の儀式の日、魔女ロベリアに呪いをかけられる。
リイナはそのことを黙ってたけど、ついに倒れてしまう。
リイナを助けるために、ヒーローことフィリックは魔女を探していると、リイナのいとこで《《恋敵のうちの一人》》のルナが魔女と繋がっていることに気づく。

問い詰めると、ルナがリイナに呪いをかけるよう魔女に頼んだことを自白、そして魔女の居場所を吐かせた。
フィリックはなんとかして見つけ出した魔女を殺すけど、間に合わずリイナは死んでしまった。
絶望したフィリックは、ルナのことを殺し、自らも命を断つという話なのだ。


全く……リオスったら……。
確かに……あの時『死んでもいい』とは言ったけど、だからって本当に死ぬ黒幕のルナに転生させなくてもいいじゃないのよ。

とはいえ、せっかく転生してリイナの幸せをそばで見届ける願いが叶ったのだ。
リイナを死なせたくないのは当然として、夢を叶えた人間としても当然オチオチ死んでる場合じゃない。

だからもう、それまでの嫉妬の感情は全て流す。
私が黒幕ということは、私が敵視さえしなければ、リイナは誰にも呪われないし、私も処刑されない。

本気でそう思ってた。


先週まではね!!


なのに先週、物語の冒頭に起きた事件が発生した。

黒幕の私が大人しくしてたはずなのに、原作通り話が進んだりしたら心配になるに決まってるじゃない!

なぜかはわからないけれど、私以外の誰かがロベリアを使ってリイナを呪おうとしている可能性が高い。

だから、私がここまで過剰にあの子を保護するのは仕方がないのよ!


と、いうことで、長い回想を終え今に至る私は、なんとしてもリイナを守りたいので、クロウの質問に答えて、捜査を強化してもらわないといけないんだけど...

こんな話……どう説明しよう。
魔法があるこの世界でだって信じてもらえないわよ。

私が犯人じゃない時点で、もう本筋だいぶズレてるから、予知夢を言い訳には使えないし。

よし、クロウに説明するのは諦めよう、ここは説明せずにゴリ押し通した方が早い。


「クロウ、あんた曲がりなりにも騎士の端くれでしょ!?昔馴染みの命が狙われているっていうのに、守ろうとかいう気概はないの?」


私は理不尽な言いがかりをかけることにした。
淑女としてあってはならない行動。


「僕が守らなくても、リイナには専属の護衛がいるでしょ?」


「そういうことじゃないのよ、守れる力があるのに、守れず知り合いが死にかけてもいいのかって聞いてるの!」


「飛躍しすぎじゃないの?元聖女候補のが襲われたからって、リイナが狙われるとも限らないし?聖女選定中ならともかく、聖女決定後にリイナを狙わず元候補を狙う理由がないよ」


「それは……」


私だってわからない。

元の内容なら、ルナは『聖女を狙ってほしい』と頼んだけれど、ロベリアは森の奥で籠っていいたせいで、情報はほとんど遮断されていた。
だから人違いをした……という流れだったけれど、黒幕が違う以上断言はできない。

でも、金品は盗まれていなかった以上、金目当てじゃない……そうなると、やっぱり聖女関係が理由としか思えない。


「『聖女』っていう共通点があるだけでも、私には不安よ。私はリイナが死ぬなんて嫌!今日は大事な儀式の日よ、危険なことは取り払うべきよ」


「だからって飛躍した推理で、一週間も部屋に閉じ込めるのはどうなのさ」


「あの子のためを思って...!」


そんな感じでクロウと言い合いをしていると、後ろの方からパタパタパタと足音が聞こえてきた。

振り返ると、先ほどリイナの部屋に行ったはずの使用人と神殿の使いの人たちがこちらに向かってきていた。


「ど……どうしたのあなたたち……リイナの着付けに行ったはずでしょう?」


「そ……それが……部屋にこのようなものが……」


そう言って、使用人は私におずおずと一枚の折り畳まれた紙を私に渡す。

ペラっと紙を開くと短くこんな文章が書かれていた。


『フィリックにお願いして、先に神殿に行くことにしました。着付けも向こうでします。 リイナ』


言葉を失って手紙を持ったまま沈黙していると、私の後ろからクロウが手紙を覗き込んでこういった。


「あーあ、閉じ込めたりするから、息詰まって逃げちゃったんだよ」


言われなくてもわかってる。
腹が立った私はピンヒールで彼の足を踏んでやった。

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