59.奇跡が合わせた仲間と敵
「どうして、はーちゃんが?! 」
えっ、安菜にもわからないの?
「再起動してない!
ああっ。転がったときに手がついたけど、でもそれだけで複雑なパスワード入力できるわけないし」
そしたら、はーちゃんが勝手に?
「起動したばかりなので、その点はわかりかねます。
もしかしたら、MCO自身の意思なのかもしれません」
・・・・・・それはあるかも。
MCOは、Mechanical Civilization Oath(メカニカル・シビリゼイション・オウス)。
"物質文明から生まれた誓い"
誓いって言うからには、そんなこともできるかもしれない。
ドン! と、明らかに危険な音がした。
「そんなことより! 敵が! 」
そうだよ!
黒い炎が襲ってくる!
しかも、これまでより大きい!
回転する燃えさかる線となって打ち上がる!
「チャフ散布!」
安菜がまた、オレンジの光たちと煙で私たちを包んだ。
それに紛れるひまはない!
急いで逃げた。
燃える線が、チャフを切り裂いて飛びさる。
それだけで、機体がドン! と押し退けられた!
音速を越える速さから生まれた空気のハンマー、衝撃波?
あまりの熱で気流が乱された?
とにかく、振り向いたら見えたの。
円形に押し退けられた雨とチャフが。
あれか!
黒い巨人が、こん棒にしたもの。
それは、私からうばった火器コンテナだった。
つかんだ手から、炎がコンテナ全体に広がっていく。
待てよ、あのコンテナの向き・・・・・・。
「はーちゃん、私の120ミリ砲がまっすぐあいつを向いたら、教えて」
「承知しました」
こん棒エンジェルスは、コンテナを勢いつけて、後ろに大きくふった。
一瞬あとには、ふり戻されたコンテナから魔法日が振り抜かれてこっちに来る!
「今です!」
「信じた!」
私はそう言って、トリガーを引く!
コンテナから2つの砲火が飛んだ。
今度は、レーザーもつける!
レーザーは高温の光の槍。
雨が最悪のジャマ者になる。
雨を蒸発させると湯気になる。
その湯気がレーザーをバラバラにしてしまうから。
今まで使う気がなかったけど、あの距離なら!
こん棒エンジェルスの半身が、炎に包まれた。
コンテナが落ちる。
恐ろしい悲鳴が、辺りをゆらした。
「スゴいや。
こんなこともあろうかと、ってやつ?」
安菜がかいかぶってきた。
「ただのWi-Fi」
電波で作る予備の回線だよ。
敵巨人が痛々しくよろめいた。
それでも、丸窓のような目で私たちを見据える。
黒い炎と一体化した牙を開いて、吠える。
でも、なんでだろう?
敵の動きを見て、というより、やっと今気づいた、って感じがする。
「もう一回キックする?」
「いいえ、その前にすることがある!
メガ・エニシング・キュア・キャプチャーを使う」
「OK!」
後ろの席で、ポケットからペンダントをとりだす音がする。
昴先輩からもらった、魔法炎。
安菜の前にあるモニター裏には、隠された専用コンセントがある。
そこにペンダントを入れる。
本当は、異能力者をのせた時に、能力をいれてもらう装置なんだ。
ウイークエンダーたちは、鉄のかたまりにペンキを塗った、ただのロボットじゃない!
長官からもらった、生体部品の結晶なんだから!
胸の動力源、無限炉心からのエネルギーがわき上がる。
そのエネルギーは、私の意思にしたがって、物理法則を書きかえてくれる。
重量を変えるとか、素材の強度を高めるとか。
今日は、そんなケチなものじゃない!
わき上がったエネルギーは、コックピットで魔法炎と混じり会う。
そして、頭部に導かれる。
ひたいにつけられた、砲口。
ブロッサムの胸ほどの大きさじゃないけど、作りは同じもの。
そこに、黒い光が宿る。
この光景を見ても、敵巨人はひるまなかった。
足を踏みしめ、腕に力をこめて、胸を張った。
真正面から受けるつもりだ。
そんな勝負に乗るつもりはなかった。
私たちがするのは。
「音声コード入力!」
声をそろえて。
「「メガ・エニシング・キュア・キャプチャー!! 」」