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「いや」

「ブルームーンに限らず、彼を批判する人達が嫌いなの。それに同意する全ての人達も。切り取られた情報を、都合の良いように解釈して、好き勝手言うのよ」

「全ての人がそうって訳じゃ…」

「私はそう思わないけど。見えている部分は、たった一部分でしかないってことに、気付かないのか。もしくは調べたり、真意や背景を理解することが面倒なんでしょうね」

知っている姿は、一部でしかない。
露華の話しを訊くたびに、食べ物が喉につっかえるような気分になる。

「実は、あなたのことも事前に調査したの」

「え…?」

全身金縛りにあったように、透日の動きがピタッと止まった。

「そんなに驚くことじゃないでしょ。付き合う相手は峻別(しゅんべつ)しないと。とは言っても、せいぜいインターネット上での言動くらいだけどね」

「そう…」
透日は呼吸を再開した。

「あなたらしき人、中々見つからなくて。まぁ、デイヴィットを愛しているなら、細かいことはいいかなって」

「簡単に分かるものなの?その…アカウントが本人のものだって」

「いいえ、半分は推測。まぁ、探偵を雇うまででもないし」

「うん…」

 露華はナプキンで口元を拭う。
不思議なことに、バーで会った時より彼女に惹かれなくなっていた。

音楽や酒の臭い、偶然の出会いが露華と透日をその気にさせた。

 個人情報は、進化し続ける超情報化社会において、厳守すべき枢要(すうよう)となっている。

ハルが本名を明かすなと言った理由である。

 本名だけで、個人情報のほぼ全てが漏洩することがある。住所、資産状況、家族構成、趣向や傾向、思想など…。

ストーカーや他人になりすまし、金銭的、精神的被害を受ける人もいる。
個人情報は金脈であり、娯楽にもなる。

インターネット上でも、プライベートでも本名は明かさず偽名を使い、フォームで顔や体系を塗り替る。

それが内側の世界の常識となり浸透していった。

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