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一回聴いた曲を、ほぼ完璧に演奏できるほどの才能が、ハンナにはあった。
彼女の影に隠れ、露華はピアノを猛練習した。その時心の支えとなったのが、ディヴィットの存在だった。
凡人の倍の速度で成長するハンナに対して、両親は誇らしげに言った。
「ハンナは偉いね。やっぱり、あなたは私たちの子だ」
その言葉を露華は忘れていない。
苛立った露華は、腹いせに母の装飾品を勝手に売った。
それ以降は父親からカードを持たされた。
金を使い込んでも、両親から干渉されることはない。
当てつけに散財して、豪華な暮らしぶりをブルームーンに投稿していたら、思いの外受けが良くのめり込んでいった。
これだったら、ハンナに勝つことが出来る。サクラを雇い、閲覧回数を水増しした。
注目されると同時に、ヘイトも集まった。
なぜ自分が中傷されているのか。それは内側の世界で、金を持っている特別な存在だから。
自分にないものを持っていることが、妬ましく思う人たちなんだ。
そう思っていないと、プライドが保てない。
実生活はキラキラなんてしていない。作曲なんて出来ないし、クレイドルに籠りっぱなし。
見栄を張らないと生き辛い。ハンナのように、生きれない。彼女のようになれない。
特別なはずなのに、空っぽだ。
「ベルは、なんで僕を誘ってくれたの?」
「デイヴィットを好きって言ってたから。彼の音楽を理解できる人は貴重な存在だよ。悲しいことにね」
「それだけ?」
「うん、それだけで十分だよ。センスが合えば、言葉は不要だと思う」
「そうは言っても…こんな高価な料理をご馳走してもらえるなんて」
「あなた、ブルームーンでデイヴィットの名前を検索したこと、ある?」