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「遠慮しなくていいから。もちろん、代金のこともね」
「う、うん。ありがとう」
露華はナイフとフォークを使いこなし、白身魚のムニエルを器用に口へ運ぶ。彼女の行きつけである高級レストランで食事をすることになった。
大きな皿の中央の窪みに、一欠片の切身があるだけで、縁にソースと花びらがあしらえてある。
鶏肉と違って、ほろほろと崩れ、すぐに溶けてなくなった。
この上なく美味しいと、ハルから聞かされていた通り。彼女は毎日、美味しい料理ばかりを食べれているのか。
「ベルって本当にお金持ちなんだね」
「え、嘘だと思 っていたの?」
「いや、そう言うわけじゃ…。魚は貴重な食料だから、食べれる人が限られるって。友達が教えてくれたから」
「まぁね。その友達の言っていること、正しいよ。私は、内側でもかなり上層の人間なの」
—それほど裕福なら、自由に生きれそうなのに
露華とは対象的に、透日のワインは一向に減らない。
内側の世界にもヒエラルキーがあり、実質トップたちが世界を支配していることは、ハルから教えてもらっていた。
真面目で優しくても人間性は評価されず、金銭的に報われることはない。
産まれた家によって、人生のステータスはほぼ確定する。
それなのに、透日から見た彼女は、窮屈そうにしている。
金があれば必然的に幸せになれる。それは幻想だったと分かったのは、家族間での溝を明白に感じたのは、ハンナがピアノを弾き始めた頃だった。
露華より後に始めたのに、彼女の努力と練習量の成果を、ハンナはわずかな期間で飛び越えた。