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57.見るしかできない、戦い

 目標は、目の前にせまる、街!
「受け身をとるよ。気を付けて! 」
 キックの姿勢のまま、翼の推力だけで街からはなれる!
 川の上まできたら、翼をたたむ!
 腹ばいの格好にはなれた。
 あとは、両手両足でショックを吸収さて!
 勢いがつきすぎた。
 これはきっと、安菜の気合いのせいてスピードがですぎたんだ。
 後の事を考えないから。
「ごめんなさーい! 」
 あやまられた。
 水は勢いを吸収してくれない。
「「ギャー!!」」
 2つの悲鳴が重なった。 
 転がって川底の石にけずられつづけて、ようやく止まった。
「グゲッ。はっ! 」 
 視界に大きくヒビが走ってる。
 頭のメインカメラをおおう、キューポラの防弾ガラスがわれたんだ。
 水がはいって、視界がゆがむ。
 外そう。
 機体が小刻みなゆれを続けてる。
 手足が、ゆっくりとしか動かない。
 ビリビリ機体がゆれてるのは、なんでだろう?
 大分ムチャさせたかな。
「私は無事だよ。安菜、無事? 」
「ええ、無事だと思う。
 モニターは? ノイズだらけね」
 振り返って見た。
 相変わらず、タフだね。
「自己診断機能? 
 これは働いてるみたい」
 ・・・・・・模範的なパイロットぶりだよ。
 でも、パイロットじゃない。
 今ここで、緊急脱出機能を作動させて、逃がしたくなった。
 私たちの座席は、レバー1つでロケットに火がつく。
 外に放りだしてくれる。
 そのあとはパラシュートが開いて地上に下りれる。
 だけど、その後どうなるか考えたら、できるわけない。
 脱出させた後で、狙われない保証は?
 回収してくれる、装甲車かヘリコプターはどこ?
 きっと、ここに乗ってる方が安全。
 そんなハッキリした、私にのし掛かる責任、不安。
 心臓が痛いほど脈をうつ。
 汗が止まらない。

 まず、役立たずになったキューポラを引き抜こう。
 普段なら支える鉄棒を固定するボルトを自動で外せるけど、今は使えなかった。
 だから、なんとか手でネジ切ろう。
 ギチギチ、嫌な音。
 ボルトがおれて、外れた。
「でた! イケメン顔! 」
 メインカメラが乗ってる頭部のこと。
 たしかに、アゴがシュツと細くなってる。
 メインカメラは人間的に2つならんでるし、(カメラ自体はほかにもある)防弾窓は切れ長の目に見える。
「安菜は、この顔好きだもんね」
 あと、隠し武器もある。

 視界はクリアになった。
 よかった。カメラは無事だよ。
 急いで全周囲撮影。
 辺りをしらべる。
 機体がずっとふるえてる。
 これも、気になる。

 雨は、やんでない。
 夕方が近づいたから、空が暗くなってきた。
 
「まずは、ディメンション・フルムーンを見るよ」
 見えたのは川の上流をおおう、霧?
 そうじゃない。
 でも、雨を蒸発させてるのは間違いない。
 あまりに湯気が、激しくでてくるんだ。
 ナイアガラの滝を、上下逆さまにしたように見える。
 その奥に、赤くて巨大なものが見えた。
 マグマみたい。
 マグマと言えば。
「ボルケーナ先輩、何かしてくれてるの? 」
 私もそう思ったよ。
 でも、「違う」
 赤いすき間から突きだす白い装甲を見まちがえるわけがない。
 赤いのは、こん棒エンジェルスの魔法炎が熱エネルギーを放出する姿だよ!
 ルルディ騎士たちもそうだった。
 ディメンション・フルムーン。
「みつきだよ。しがみつかれてるんだ!」
 それにしても、異常なほどの水蒸気がでてる。
 すぐにわかった。
 川に入って、放射能塵洗浄装置を作動させてるんだ。
 放射能塵洗浄装置は、核戦争になった時に機体に付いた放射性物質を、洗い流すためのもの。
 機体全体に仕込まれたシャワーでね。
 今は、川に海水が混じって増えた。
 こん棒エンジェルスの囲みを、内側から水を吹きかけて、水蒸気の爆発を起こして弾き飛ばしてるんだ!
 だけどその爆発は、ディメンションも傷つけるはず。
 わずかな救いは、白い装甲、腕が赤い炎をはぎ取っていくから。

「敵のポルタも見るよ」 
 助けにいきたい。
 でも、動こうにも機体の様子すらわからない。
 つらいけど、目を離すの。
 見ることだって戦いだって、自分に言い聞かせながら。
 カメラはまわる。
 向かいの山、朱墨ちゃんの学校が麓にある山。
 滝があった。
 その水は、山肌を、つづいて街を押し流してる!
 あれは高い大きな山だけど、それを無視するような大量の水が、噴き出してる!
 機体をずっとビリビリ揺らしてたのは、あの滝の音だったんだ。
 ポルタが、滝になっていた。
「あれ、海水だよ!」
 安菜が怒りだす。
「まさか、海に沈んだポルタからきたの!? 」
「そう! このままじゃ、筋金の田んぼみたいになる! 」
 私たちは知ってる。
 サークル仲間の筋金くんのお家は、田んぼを作ってる。
 それが海のそばにあるんだけど、大波で海水がかぶったことがあるの。
 このままでは稲が枯れる、そう言って、すごく落ち込んでた。
 そのときは、たくさん水を流して海水を追いだしたらしいけど。
 今、流れ落ちる海水は、街を横切って川に注ぎ込んでる。
 この下流には、平地がつづく限り田んぼがつづく。
 畑もある。花壇も、林も。
 そこに海水の害がでたら、どのくらいになるの?!

 その時、銀色の巨大な者が滝に近づいた。
 あのボルケーナ女神像だったよ。
 その表情は、怒りで険しくなっていた。
 表示される。
 コントロール責任者はパーフェクト朱墨?!
 朱墨ちゃんは通常人なのに?!
 でも、サポートがついてる。
 九尾 九尾。
 朱墨ちゃんのおばさんだね。
 MCO像は、山をよじ登る。
 滝の水量をものともしない。
「あれ、この前に達美先輩が使ったMCOの3倍はあるよ」
 さすが九尾 九尾さん。
 女神像がポルタにしがみつく。
 尻尾も翼も丸めて使って。
 まるで、この川の上流にあるダムみたいに、海水をせき止めた。

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