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「心配しずき。あの子、そんなに幼くないじゃない」
「うん…」
「信用できない?私のこと」
露華の口調が強くなる。
「そんなことないよ」
「なら、乗って。時間が勿体無い」今度は柔らかく笑う。
今日一日、解放されよう。そう決めると、透日は茉璃にメッセージを打った。
<ごめん。すぐ戻ってくるから。そこで待っててね>
露華はシートの真ん中に座り脚を組む。
「あなた、タバコ吸うんだっけ?」
「…いや」
「よかった。私、嫌いなの。臭いを嗅いだだけで父親を思い出すから…。そんなことより、サムは星に興味ある?」
「うん」
「よかった。じゃあ次はプラネタリウムに向かうね」
二人の間に、わずかなモーター音が響く。
露華の両目は、インターネットに張り付いている。
バーで飲んでいた時も、さっきの移動時間中でも、彼女は常に何かを探している。
一瞬だけ、露華の表情が曇った。それに、透日は気づいていた。
彼女は両親との関係がうまくいっていないと、ほのめかしている。
「もしかして、何か悩んでる?」
「悩みってというより、妬みね」
「どういうこと?」
「ごめん。あなたのことじゃなくて。暇な貧乏人たちが、私の悪口を送ってくるから。こうも続くと、気が滅入るんだよね」
「何でそんなこと…」
「そんなの決まってる。私が金持ちだから。恵まれないのを人のせいにしてさ。憎しみこそがあの人達の原動力なんだろうけど」
「えっと…」
「早く外に出て行って欲しいけど。時間かかるんだよね」
「…うん…」
「さて、辛気臭い話しは終わり。もっとロマンチックな話しをしよう」
車のドアが開いくと、露華は自然に透日の手を取って引っ張った。
転びそうになりながら、着いて行った。彼女の隣に並ぼうとはしなかった。