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露華は茉璃に目線を合わせる。
「サリーちゃん、動物好き?」
「…分からない。見たことないから…」
「本物は、見たことないんだ。画像とかでしか…。ここに来るのも初めてで」
透日は慌てて付け加える。
「そうなの?それなら、飽きずに楽しめそうね。サリーちゃん」
「…うん」
茉璃は目に光を取り戻し、多種多様な生物たちを興味深く観察している。
その隙に露華は透日の腕に手を回した。
「え、ベル?どうしたの?」
「サムはこっち。私とデートしよう」耳元で囁いた。
「デ、デート…?」
「そう、二人だけで遊ぶの。妹さんは大丈夫。私の知り合いが面倒を見るから」
「わ、悪いよそんなこと…」
「いいから、いいから。たまには、息抜きが必要でしょ?ラクしちゃおうよ」
「だけど…」
透日は露華に背中を押されて、半ば強制的に外へ出された。
彼女は最初からそのつもりで、茉璃も誘ったのだろうか。だったら、ハルに頼んだほうがよかった。
透日の中で、不安と後悔と、解放感が渦巻いた。
茉璃のために、時間も肉体的、精神的労力も割いてきた。それは巻き込んだ側の責任だ。
無意識の自覚が輪郭を帯びるより前に、透日には生きる目的が必要だった。
当時、内側へ行くことは、ただの夢に過ぎなかった。
だからこそ、生き続けるためには明確な目的が必要だったのだ。
自分がしっかりしないと、茉璃は野垂れ死んでしまうのだ。
独りよがりの理由で、自分を奮い立たせ自分を救ってきた。
一方で、もし彼女がいなかったらという感情が、頭をよぎったことは全くなかった、と言い切れない。
露華の言うことも一理ある。そう思ってしまった。