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「そんな…。君はどんなことをしているの?」
「基本的にはピアノを弾いたり、曲を作ったり。たまに絵も描くかな」
「すごいね、自分でできるなんて。ジャスの曲を作ってるの?」
「ジャスも作るけど、最近はポップ・ミュージックにハマってる」
「ぜひ聴かせてほしいな」
「完成したらね。まだ人前で披露するようなクオリティじゃないから」
「うん。楽しみにしてる」
茉璃は自ら蚊帳の外に出て、隅に縮こまっている。露華が話題を振っても、一言しゃべっただけで終わる。
やっぱり茉璃だけでも帰そうか。そう思った時、車が停まった。
「着いたみたい」露華が先に降りる。
"ヴァーチャル・サファリパーク"。ハルたちが寝ている間、新しい動物が導入されたというニュースを、ブルームーンで読んでいた。
不倫や未成年の売春による金銭トラブルのニュースが、常にランキング上位になっていることが気がかりである以外、便利なコミュニケーションサービスだ。
ハルは、勧めないと言っていたけど。みんな使っているって言っていたから、大丈夫。
透日の中で、主語が"ハル"や"誰か"に置き換わっていることに、彼は気づいていない。
ヴァーチャル・サファリについても詳しく調べてみた。
中身は水族館とそう変わらず、違うところは生態を人間に危害が加わらないよう、適度にプログラムされ、触れ合い用に造られた動物ロボットがいること。
爪を丸くさせたり、体を小さくされたり、人間に危害が及ばないよう、改良されている。
また、檻はないが決まった範囲から出られないよう設計されている。
本物だろうが、偽物だろうが重要でなくなってきているように捉えた。
人間の勝手で滅ぼされた動物でも、勝手に再現させらた。
客は皆、好きな動物に抱きついては、股がって面白がっている。
動物たちは、計らずも永遠の命を手に入れた訳だが、彼らにもその欲望はあったのか。