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第1話 追放

 とある高級宿に、月明かりが差し込んでいた。
 微かに開いていた窓からふわりと夜風が舞い込んでいる。そんな中、パーティーリーダーであるクロノス・ユリーカが不意に滔々と俺の名を呟いた。

「――なぁ、ロウ」

 ロウ・エンゼルン。俺の名だ。呼ばれたことに反応するようにして視線を送るとクロノスはどこまでも無表情だった。何故だが嫌な予感が脳裏を掠めた。

「どうしたんだ急に。怖い顔をしているぞ?」

 俺のジョークを孕んだ言葉は無視。静かに霧散した。
 不穏な雰囲気を受け顎に手をやった「あぁ」と俺は大袈裟に頷いて見せた。

「明日からの攻略についてか。どうりでピリピリしてるんだな」
「ロウ、聞け。大事な話だ。攻略についてではない、お前自身の話だ」
「……俺の話? 改まってなんだ、ミスはしていないはずだ」

 先日の攻略を振り返ってみるが、取り立ててミスは起こしていない。
 クロノスは静かに笑い、首を左右に振った。その飄々とした態度に苛立ちを覚えてしまう。周囲を見やれば、パーティーメンバー全員が薄ら笑いを湛えていた。

「確かにミスはしていないな。だが、今日は成果が出せていない」
「それは、そうだが。仕方ないだろう、魔石が現在は尽きているんだから」
「……そう、それだ。ロウ、お前な――薄気味悪いんだよ、正直」

 クロノスは笑みを消して、無表情のまま心情を語った。
 俺の記憶に存在しているクロノスとは別人のようであった。瞳に色はなく、ただひたすらに言葉を紡ぐ。反論や反抗をまるで許さないとばかりに。

「――お前は、今日限りでパーティーを抜けてもらう。これは決定事項だ」
 
 どう答えたものかと思考を練っていると、クロノスからの追撃。
 嫌な予感が的中したと胸中で舌打ちした。俺は眉を吊り上げ、

「……おいおい、笑えない冗談だ」
「冗談ではない。全て事実を伝えている」

 俺がねめつけると、クロノスは目を細めた。俺の知らぬところでとんでもない話が進行していたようだ。その理不尽に、思わず苛立ちを放ってしまった。

「どうしてだよ。幼馴染で仲間だろうが! いきなり、んなこと言われてハイ、そうですかって納得出来るか? なあクロノス、詳しく説明しろよッ」
「確かに幼馴染だ。俺とお前はな、仲間でもある」

 だが、とクロノスは言い加えた。

「今日まで、だ。明日からはお互いに他人になろう。……ずっと考えていた、いつロウをパーティーから追放すべきか。お前はこの先、確実に足手纏いになる」
「……俺が足手纏いになるなんて確実な証拠はないだろう」

 未来のことなど誰にも分からない。

「ある。ロウ自身の身体がそれを示している。……お前の特異体質は確かに爆発的な火力を発現することも多い。だが、不安要素も伴う。それこそ魔石不足とかな」
「その火力があったから先日の攻略は成功を収めることができた」

 俺の発言にクロノスは肩を落とした。同時に項垂れる。

「否定はしない。だが、今はどうだ? 冒険に出ることさえ躊躇するような段階だ。質の良い魔石を摂取しなければろくすっぽ活躍もできないだろう?」
「燃費の悪いメンバーを置いておく席はないと言いたいんだな」
「……理解が早くて助かるよ。さぁ、ロウ・エンゼルン」

――荷物をまとめて出て行ってくれ

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