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雨の箱

彼には先にシャワーを浴びてもらっているので、水無瀬はコンビニで買えの下着を買いに行く事にした。

財布を掴んで、今度は大きい傘を持って家を出る。

昔は、こんなに便利じゃなかったんだだろうな。この時代に生まれて来れて良かったのかもしれない。


音海は、あらかじめ置いておいたバスローブに身を包んで、ベランダから外をのぞいていた。

隣がすぐマンションなので、雨は届きにくいものの、温度的にそんな格好でいられると心配になる。

下着を渡してシャワーを浴びようとカーテンを開けると、そこにはまるで新品のような整ったシャワールームが

静かに存在を主張している。

何がどうあれ結局はシャワーを浴びたものの、水滴ひとつない浴室を汚してしまうのはなかなか覚悟がいる事だった。

髪を拭き、ドライヤーで乾かす。

なんか、凄い事になってしまった。あの時、家に、なんて身の丈に合わないことを言ってしまった自分が恥ずかしくなってくる。


「浴室、ありがと。」

「…」

返事はなかったけれど、小さく頷いたのが遠くからでもわかる。

水無瀬は最近、夕飯は食べずに昼食と兼ねて17時くらいに食べている。しかし、一日二食というのは良くないということも

理解しているので、彼も居るしたまには、という精神で冷蔵庫を開けた。

あー、と、声にならないため息を吐く。冷蔵庫には、何かあった時用のゼリー飲料しか入っておらず、ほぼ空っぽ。

「ごめん、食料ないかも」

申し訳ないな、と思った矢先に、昼に買っておいたおにぎりがカバンに入っていることを思い出した。

結局忙しくて食べ損ねたやつ。カバンから取り出して、これならあるけど、と渡す。

音海は受け取って、じっくりそれを見ていた。

「明日までは持つかな、」

長い髪の間から除いた目が、じっとこっちを見つめてくる。またこれも、否定をしないのなら食べてくれるんだろう。

同年代にしてはやけに喋らない、静かな方なんだな、と思った。



翌朝、目が覚めるとただ唐突に、低い、と思った。いつもより天井との距離が遠い。

起き上がると、水無瀬のベットには誰もおらず、音海はベランダに居た。

もう音海は制服に着替えている。そういえば、結局彼はうちの学校の生徒なんだろうか。

朝食を作る材料も無いので、仕方なくゼリー飲料を飲む事にした。

「ごめん、またこれしか無いんだけど、
 __『一日分の栄養』って書いてあるから、多分しばらくは倒れたりしないよ。」

いらないと言われても困るので、水無瀬も制服に着替えて支度をする。

部屋に戻ると、またもベランダにゼリー飲料を口にして佇んでいる音海が居る。

「部屋よりも外が好き?」

「…そういうわけじゃ無い」

そこで会話は途切れた。何で外にいるの、とか聞くこともできたが、次に口を開いたのは音海だった。

「親、いねぇの?」

「一緒には住んでないよ。」

「それは知ってる。」

何で知ってるんだよ。昨日だけいなかった可能性もあるじゃないか。

「生きてるよ。」

「それも知ってる。」

じゃあ何が知りたいんだというところだが、まさかただ話をしたかったわけではないだろう。


「宇宙にいる。」

驚いたように、こっちを向くので、そのまま続けた。

「5年生の時ぐらいかな、両親が宇宙飛行士でさ、初めての仕事だったわけ。プロとかベテランっていうのかな、そういう感じじゃなか

 ったから。二人にはずっと行きたかった宇宙に行けるって、素直に喜んで欲しかった。」

「こういう時、子供の存在が邪魔になってるって気づいていたから、中学卒業するまでは親戚に引き取ってもらってた。」

あながち間違いではない。事実に近い事を述べただけだ。

「学校」

学校同じだね、何年生?、昨日は制服着てたのに、何で来なかったの?

色々聞きたくて、結局後の言葉が続かない。

「行くのが______怖かった。」

音海は、外を向いてそう言った。

「何組?学年は?」

同じ組で、同じ学年だった。しかし1学年2クラスしかないので、奇跡でも何でもない。

そして彼は、転校してきたということも知った。腕時計を見ると、7時を過ぎたところ。

「行こうか、そろそろ。」

部屋に入って鞄を担いでもこっちに来ないので、おいでよ、と手招きする。

「はい、なるべく乾かせるやつは乾かしたけど、湿ってたらごめん。」

昨日、シャワーを浴びた後浴室乾燥も兼ねて、雨水に浸ったままの鞄と中身を干しておいた。


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