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透日も恐る恐る口へ運ぶ。果実の甘酸っぱい味がした後、強烈なアルコールの刺激に顔を歪めた。それに対して、露華は平然としている。
—何で内側の人たちは平気なんだろう…
残してもいいものかどうかと悩んでいると、突如大きな拍手が起こった。
ステージに目を向けると、サテンのドレスを着た若い女性が、袖から中央にあるマイクの位置へ、歩いているところだった。
どうやら歌い手のようだ。女性は胸に手を当て深呼吸をする。
照明は一点に集中し、彼女の存在感をぐっと強くさせた。
ドラムの軽快で正確なリズムを合図に、美しい高音とビブラートを響かせる。
ピアニストの複雑な指の動きと、奏者たちの一様に楽しそうな姿に、透日は見惚れてしまった。
もし、内側に産まれていたら、自分も彼らのようになれる道があったのだろうか。
二口目のオーロラは、喉にほろ苦さを感させた。
間奏に入った所で露華が口を開く。
「私ね、実はお酒苦手なんだ」
「…え、そうなの?」
「うん。だけど、あなたを見つけて嬉しくなってね。つい身の丈に合わないことしちゃった」
「そうなんだ…。えっと、無理しなくても大丈夫だから。僕も…お酒ほとんど飲んだことないんだ」
「ありがとう、サムって優しいのね」
「い、いや…。そんな…」
「ねぇ、アカウント教えてくれる?」
「え?アカウント?」
「そう。忘れないうちに」
「えっと…」
「もしかしてあなた、”ブルームーン”使ってないの?」
ブルームーン。使わない方がいいと、ハルが言っていた。
「あ、うん…。やらない方がいいって、えっと、友達が言ってたから…」
「嘘でしょう?あなた、何を使って連絡しているの?」
「UNIONだけど…」
「いつの時代の話?今時使ってる人がいるなんて」
露華はケラケラと笑う。透日は何がおかしいのかついていけなかった。