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 ハルの言った通り、どこが鼻でどこが目なのか分からなかったり、異様に鋭く発達した牙を持ってる、奇妙な見た目をした魚たちが増えてきた。

最初は気味悪がっていた二人だが、次第に愛着が湧いてた。見た目がなんとなく、自分に似ている。

そして最終エリアである、ミッドナイトゾーンへ突入する。
氷点下に近い水温と高水圧、貧栄養という極限の環境のなかでも、生物は存在する。

深海に生きることを選択した生物たちは、余儀なくここまで追い出されてしまったのかな、なんてことを透日は思った。

それでも深海魚たちは生き残るため、不格好で独特な進化をを遂げてきた。

自分が生きるべき場所はここなのだと、すんなり受け入れることができたら。
トンネルを抜けたように、光景が再び碧色へと切り替わる。

透日は顔を上げた。海面の神秘的な揺らめきに囚われた彼は、立ち尽くすことしか出来なかった。



 最初に聞こえてきたのは、コントラバスの低音。その次にピアノ、ドラム、サックス、トランペット。そして、ちょうどいい音量の笑い声。

「ジャスバーって、大人になったら行ってみたかったんですよね」
ハルはギムレットが入ったグラスを傾けた。
「オシャレなところに行って、背伸びするこのに憧れてた時期があって」

透日と茉璃はソフトドリンクを注文した。
試しにカクテルを飲んでみたが、一口で十分だった。

「確かに、素敵な所だね。時間が許す限りずっとここにいたいよ」

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