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デイヴィッド・ディック。ピアニスト、作曲家、編曲家。代表曲の『革命』『義賊』などの他にも、多数のヒット曲を手掛けてきた。『蝶を壊す車輪』を最後に引退を宣言し、それ以降表舞台に出ることはなくなった。
彼の名前を検索すると、「稀代の天才作曲家、引退の謎」「原因は実父との確執か」などがトップに並ぶ。
名も知らぬ彼女との再会を祈り、透日は一つ一つの単語を調べながら予習をする。
同じ時間に、あのピアノの前にいると言っていたが、手がかりはそれだけだ。
デイヴィッドの曲を聴けば聴くほど、彼女に会いたい気持ちが強くなっていく。
「お魚!ハルお兄ちゃん、私お魚が見たい!」
ハルはサンドイッチをかじり地図を出す。
「分かった、分かった。こここら少し離れてるから…タクシーに乗りますか」
「タクシー?」
「自動で目的地まで連れて行ってくれる乗り物だよ」
「へぇ。どこで乗れるの?」
「呼べばすぐに来るよ。サムはどうですか?」
「…え?あ、うん。いいと思う」
ワンテンポ置いて返事が返ってくる。
「ちゃんと訊いてました?」
「訊いてたよ。えっと、魚見に行くんでしょ?」
「お兄ちゃん、体調悪いの?」
茉璃が心配そうに訊く。
「いや…そんなことないよ。大丈夫」
透日たちはタクシーに乗り込む。無人運転となっており、その分スペースが空き、広々としていた。
道中はスムーズに進んだ。茉璃はずっと窓の景色に夢中になっている。