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「動画でいいなら、いつでも聴けますよ。またやり方教えますね」
「うん、ありがとう」
一刻も早くシャワーを浴びたかったハルは、残りのご飯を無理やり流し込んだ。
順番が決まっている訳ではないし、文句を言う人たちじゃないと知っているものの、ハルは二人に断りを入れた。
カランを全開にしているのに、シャワーの水圧は弱いまま。それでも、毎日水を使うことができるのは、当たり前ではないと知った。
ー透日は身を粉にして働いて、どうにか、光熱費と家賃を払い続けてきたんだろうな
ハルは生臭いシャツを手揉み洗いする。茉璃が歳頃に成長したら、拒絶されるのではないかと要らない心配をした。
「外側こっちにいる限り、幸せになれない」図書館での茉璃との会話が蘇る。
ハルは早々にシャワーを体へ当て、顔を両掌で擦った。そして、シャツをきつく絞った後、たまらず浴室の扉を開けた。
「…お兄ちゃんたち、本物の家族みたいだね」茉璃が言う。
本物の家族—。本心を明かせず、核心をずらしながら続ける関係であるにも関わらず。しかし、透日に家族とは何かを、教えてくれる人はいなかった。案外今ある形がスタンダードなのかもしれないとも思った。
「そうかな?彼もそう思ってくれればいいけど…」
「思っているよ。お兄ちゃんといると、とても楽しそうだもの」
「そっか…。そうだといいな」
透日は空になった三人分の容器をごみ袋に押し込んだ。