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「お兄ちゃんってば、私が寝ている時でも聴いてたの。朝までずっとの時もあったっけ」
「ごめんって。これしか楽しみがなかったんだよ」
「分かってる。けど向こうへ行けるようになったから、次行く時新しいの探しに行こうよ」
「うん、そうだね」
探しても見つからないのではないか。ハルはそう思ったが、わざわざ言うのは野暮だと、口を閉じた。
目的のものがなくても、あれこれ思い出しながら探すのも楽しい時がある。
「親の代わりみたいなものだった。必要なことは、全部ラジオから学んできたと思う」
ハルは進まない箸を止める。
「来週あたり向こうに行きませんか?次はコンサートに」
「いいね、そうしよう。…あ、そういえば、ハルは『革命』っていうピアノの曲知ってる?」
「詳しくはないけど、聴いたことありますよ。確かデイヴィット…。作曲家はデイヴィット•ディックだったかな」
「その、デイヴィットさんは有名な人なの?」
「有名といえば有名だと思う。まぁ、名前は知らなくても曲を聴いたことある人は多いんじゃないかと」
「そっか…。どこに行けば聴けるかな?」