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「どうかしたの?」
透日は俯くハルに声をかけた。
「あ、いや…。別に何でもない」
ハルとしては、いつものように笑ったつもりだった。
透日の中に一滴の不安が落ちる。それは衝動と混ざり合り、瞬く間に広がった。
伝えないといけないと思った。過去は過去でしかなく、自分にとってハルは人生を変えてくれた人だ。だから、それだけで十分なのだと。
「ハルは、あの…」透日は心配そうな顔をして、水中で喋っているかのようにモゴモゴと言った。
「僕のことを…どう思っているか分からないけど…」
「え?」ハルは耳を近づける。
「えっと、つまり…僕に出来ることがあったら言ってほしい。あの…気にしないから…もう何も。だから…」
透日の声に張りが戻ってきた時、ハルは言葉を被せた。
「ありがとう。けど、もう気負わないでください。俺は君に救ってもらった身ですから」
「うん…」
意図をずらさている感覚を持ちながらも、透日は頷く。焦りすぎたのかもしれない。
彼の情状を、深い闇や悲しみを知った後も、ハルと一緒にいることを望むのだろうか。
見て見ぬふりをして、今と同じように頷くことが出来るのだろうか。