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母が代理出産を依頼したのは、子どもは欲しいが自分で産みたくない母と、手っ取り早く大金が欲しい誰かがいたから。

需要と供給があったから。時代背景を考えれば、ごく自然の流れだったから。

今更母の選択を避難したところで、どうにもならないことは分かっている。

 今まで、何一つ苦労をしないで生きてこれた。働いたこともなく、欲しいものは何でも手に入ってきてた。

だからこそ、金では買えない何かが欲しい。そう強く思うようになったのは、ハンナが産まれてからだった。

父とも母とも似つかず成長する露華を見て、次の子は自分で産もうと母は決意した。

胎児のために、健康に最新の注意を払って、お腹から出てくる我が子を今か今かと待ち侘びる姿を、露華は傍で見てきた。

五歳違いで産まれてきたハンナは、母に似て小柄で可愛らしく育っていった。父にも愛されていた。
仕事と不倫で忙しい父が、ハンナのためだけに時間を割いて帰ってくることもあった。

 「ハンナは偉いね」それが父の口癖だ。
ピアノコンクールで優勝した。成績上位者にもなった。彼らの眼差しが、露華へ向くことはなかった。

両親の愛情を一心に受けたからか、性格も社交的で親切だ。
それに対して露華は、内気で何を考えているか分からない。そう評価されてきた。

 ハンナはこっそり、家に男性を招き入れたことがあった。その時、たまたま家にいた露華にだけ、教えてくれた。「彼氏ができたの。けど、お母さんとお父さんにはまだ言わないでね」

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