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なぜ、母はもう誰も使っていない、カナイ語で名前をつけたのか。最初から興味はないし、露華という名前も好きではない。
ヴァーチャルでも、リアルでも"ベル"と名乗ることにしている。
二日ぶりにクレイドルから抜け出し、アイランド型 キッチンに立つ。
料理を作るためではない。面倒なことは、家政婦や専用のアンドロイドがやってくれる。
棚から手前のグラスを取り出し、ピーチリキュールとオレンジジュースを適当に混ぜ合わせた。
ピーチのまどろっこしい甘さが喉に残り、途中でオレンジジュースを足した。
気分を変えたいから飲んでいる訳ではない。ただ、喉が渇いたから飲んでいる。
ショートドリンクだとすぐに酔いが回り、立っていられなくなるから、大体ファジーネーブルかカルーアミルクの二択になる。
露華は窓を開けて風に当たる。高層マンションの最上階からの眺めは、相変わらず。
ゲートの存在も、外側にいる人達のことも、露華は認識している。
ゲートのを作ったことは、露華にとっては良いことだと思っている。
戦争で国は滅茶苦茶になって、資源も食糧も不足していているのだから、国民全員を守る余裕はないことぐらい理解できた。
自分は内側に、しかも資産家の元に産まれた選ばれた側の人間だということも。