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「あ、いや…ちょっとね」

「なるほどね、そうかぁ。透日にも好きな人がねぇ」

ハルは冗談で訊いたつもりが、満更でもない様子に、全てを察したようだった。わざとらしく笑って見せる。

「い、いや、違うよ。ただ…話が合っただけって言うか…」

「隠さなくてもいいんですよ。茉璃ちゃんには秘密にしておくから」

「…。好きっていう感情なのか分からないけど…。気になってしまうっていうか…」

「それを好きっていうんですよ。中々戻ってこないと思っていたけど、そういうことだったとは。で、どんな感じの人でした?」

ハルは興味深々のようだ。思ったより話題を深掘りしようとする。

「えっと…、彼女もピアノが好きで…。僕と同じような感想を持っているって言うか…」

「うんうん。趣味が合うって大事ですよね。名前とか聞いたんですか?」

「あ、いや。それが…出来なくて」

「まぁ、向こうは狭いから。またどこかでばったり会うかもしれませんね」

「うん、だといいけど…」

 ハルの背中で気持ち良さそうに眠る茉璃を、透日が優しく見守る。
茉璃にもいつか好きな人がきて、透日の元を離れていく日が来る。そうなってくれればいい。

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