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透日は慌てて紙をしまう。
「あ、ありがとう。ところで、これは何に使うの?」
「ゴーグルとイヤフォンです。技術によって実際にないものが見えたり、聞こえたりようになるんですよ」
「へぇ…」
「向こうでは、透日をサム。茉璃ちゃんはサリーって呼びます。本名を知られて良いことはありません。個人情報は命の次に大切です。いいですね?」
「分かった。ハルのことは何て呼べばいい?」
「そのままでいいですよ。本名ではないので」
「あ、そうだったんだ…。了解」
ー本名じゃなかったのか…。いや当たり前か…
なぜハルが自分たちのために尽くしてくれるのか。未だに訊けずにいる。
最初は内側へ連れて行ってくれることを期待し、つかず離れずの関係性を保っていたかった。
ハルの秘密を知ることで、関係が途切れてしまうのではないか、と危惧していた。
しかし、いつの間にか透日の中で、ハルは人生で初めての友人として、信頼を築いてきた。
果たして、それは勘違いだったのだろうか。確かめる必要はあるのだろうか。
目的地が見えてきた。漆黒に塗られた巨大な壁が、威圧感を与えてくる。
早朝にも関わらず、そこは向こう側へ働きに行く人々で混雑していた。