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中にある本は整頓されており、人の気配もない。茉璃の言う通り誰も立ち入っていないように見える。

「ハルお兄ちゃんにね、読んでほしい本があるの」

そう言って手にしたのはカナイ語で書かれたハードカバーの本だった。白い背景にグランドピアノが描かれた大きな本。

「お兄ちゃん、音楽が好きなの。けど、ここは自由に音楽を聞けないでしょう?だから、もし、向こうに行けた時、役に立てるようにって思って」

「いいんじゃない?透日きっと喜ぶよ」

「ありがとう。この本、難しい言葉がたくさんあって。ハルお兄ちゃんに助けてほしいの」

「ごめん、力になりたいけど…カナイ語は読めないんだ…。けど、楽器の種類くらいは分かると思う」
「そうなんだ、分かった。ありがとう」茉璃は微笑み、机の上で本を開く。

「…お兄ちゃん、いつも頑張ってる。優しいし、暴力なんてしない。なのに、内側へ行けないの。私のために、お金を使わないでいるんだと思う。私、お兄ちゃんを楽にさせてあげたい…。でも、こっちにいる限り、幸せになれないんだと思う」

ハルは2人だけのしんとした空気と茉璃の言葉に耳を傾けた。茉璃は1ページ1ページを丁寧に捲る。

「あ、これ。この黒くて大きいの。多分、お兄ちゃんが好きな音楽だよ」

「ピアノが?どうしてそう思ったの?」

「えっと、色んな音が同時に出てたから。これなら、高い音から低い音まで鳴らせると思う」

「へぇ、茉璃ちゃんすごいね。これはグランドピアノっていう楽器だよ。長いからピアノって呼ぶ人が多いかな」

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