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「ハルお兄ちゃんのこと、ずっと待ってたんだからね」
「ありがとう、茉璃ちゃん」
透日が仕事に出た後、すれ違い様にハルが家に戻ってきた。
茉璃はハルが内側の世界へ戻っていってしまった、と思っていたらしい。
「せめてお手紙でも書いておいてよ」と口を尖らせる。
強がって表に出していなかったが、やはり寂しいかったのだろう。
「お兄ちゃんのところ、行かないの?」
「うん、なるべく君についてあげてほしいって」
「そっか…」
茉璃の声はすぐに壁へ吸い込まれた。
たったそれだけの言葉。しかし、「透日もいてほしかった」という含みを持っていることを、ハルはすぐに分かった。
ハルとしては、懐いてくれていると思っているが、彼女との間には埋めることのできない空白がある。
「…お兄ちゃんのこと好き?」
ハルが訊く。
「え?好きだよ。ハルお兄ちゃん、好きじゃないの?」
「もちろん好きだよ。透日、いい人だからね」
「うん、お兄ちゃんいい人。ハルお兄ちゃんのことも好きだよ」