39
グラウンドに集まっていた掛け声がまばらになっていく。
「君、もう施錠するよ」
終業時間の間近になっていることに気づかず作業を続けていた透日のところへ、管理人の男が知らせに来た。
「すみません。今片付けます」
達成感と空腹感が同時にやってきた。
今日はハルの分の弁当も買っておいたほうがいい。炊き出し所はすぐ近くだから、早めに帰れそうだ。
相手を待たせないよう用具を乱雑に押し込んでいると、妙な気配を感じた。
尖った靴先が透日の体の正面に向かい合う。
「ねぇ、君。ウチに来ない?」
思わず恐怖を感じさるような声のトーン。
「え…?」
目の前に立ち塞がれ、固まる透日に男は続ける。
「君もウンザリしているでしょ?ウチに来れば悪いようにはしないよ…」
「あの…。急いでいるので…」
「君は神を信じるか?ウチに来て修行を積めば、神に出会える。さらに厳しい試練を成功させれば、願いが叶う」
「すみません、僕はこれで」
「君には素質がある。君も内側へ行きたいだろう?この苦しい生活から逃れたいだろう?隠す必要はない。人間である以上、欲は存在する」
男は透日の両肩をがっしりと掴む。歯茎を剥き出し笑う。
呼吸のリズムが崩れる。一回落ちれば這い上がることなど、到底無理なほど深い穴へ閉じ込められる。
「透日!」
パッと手が外れた。男は二歩下がって距離を取る。
「ハ、ハル…」