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「あれ、先輩?起きてたんですね」
「うん、どうにも眠れなくて…。ハルも?」
「はい、俺もそんなところです」
ハルは透日が座れるようにと横にずれてくれた。
「…空に雲がないところ、初めて見たんだ」
「え?本当に?」
「うん…。月って言うんだよね?すごく綺麗」
「…。あの…、初めて合った時、どうしてこっちに来たのかって先輩に聞きましたよね」
ハルは前を見たまま続ける。「俺、先輩みたいないい人がどうして、って今でも思っているんです」
透日の声が聞こえるまでハルは目線を動かさなかった。
「僕は…元々こっち側に産まれたんだ。母親のことは…細かいことは何も…。ただ生きるのに必死で…」
透日は慎重に話し出す。
「それから、このことは黙っていて欲しいんだけど…」
「茉璃ちゃんのことですね」
初めて透日と目が合った。
「大丈夫です。俺、口は固いから」
どうして分かったの、という顔をしている透日に対し、ハルは「二人とも、兄妹にしては似てないって思ってたんですよ」と付け加えた。
「そっか…。茉璃は僕のこと、血の繋がった兄だって思ってるみたいなんだ。だから…」
「分かってますよ。俺と先輩の仲でしょう」