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魂を吸い込むような、幽玄な
晴れていない海岸は、死を連想させる重さで沈んでいる。
透日と茉璃はベッドで、ハルはソファで寝ることにした。しかし、マットレスの程よい柔らかさが、透日の寝心地を悪くさせた。
何度も寝返りを繰り返した後、彼は熟睡する茉璃のを起こさぬよう、枕元に置いてある「海の生物図鑑」をテーブルの上に移す。
「これはクジラ、こっちはイルカ。それからこれは、シャチ」
食事の後、茉璃はハルとの勉強の成果を披露した。
識字は問題ないくらい、図鑑の説明をスラスラと読み上げた。
彼女は透日と違ってまだまだ若い。無限の可能性を秘めた未来がある。
言われたことを、スポンジのように吸収してしまう。それと同時に純粋ゆえ何色にも染まってしまう。
透日はポケットの中からデバイスを取り出し、電灯機能を使って棚に飾られているボトルシップを照らす。分厚いガラスの中に躍動する船の模型があった。
実際はこの何十倍も大きさがあるのだと、ハルが教えてくれた。
ーそれほどのものが水に浮くなんて、信じられない
瓶を動かしあらゆる角度から船を観察する。下に敷かれている砂の粒がきらめいた。
すると透日は、自分の影が床に伸びていることに気づく。
優しい月の光が窓の縁を撫でるようにして入り込んでいた。
夜空へ駆け寄る。その闇の中に、くっきりと浮かぶ満月があった。
神秘的な月明かりと無数の星々が、透日を惹きつける。
もっと近くでみたい。もう一回、上まで行こう。
ソファにハルの姿はない。
彼も星を見に行ったのだろうか。
冷たい手すりを伝いながら登る。もしハルがそこにいなかったらと思うと、背中に一筋の汗が流れた。
この焦りの気持ちは、友人として純粋に心配する気持ちなのか、それとも思い描いていた計画が頓挫してしまうことを恐れているのか。
しかし、それはただの杞憂だった。
「ハル?」見慣れた後ろ姿に声をかける。