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透日は難色を示すと茉璃は口を固く結ぶ。泣き出すのを我慢しているようにも見える。
「じゃあ、泊まるっていうのはどう?今日一日だけ、ここで寝るの」
今度はハルが提案する。
「うん、そうしたい!そうする!」
「うーん、けどもし仕事が入ったら…」
透日はメールを確認しようとデバイスを開こうとしたとき、ハルが画面の上に手を置いた。
「先輩、明日のことは忘れましょう」と、透日の腕ごも下げる。
「大丈夫、俺も手伝います。それに、次いつ三人でここに来れるか、分からないんですから」
透日はその言葉に引っかかりながら、
「…。うん…そうだね、分かった。そうしよう」
と言いデバイスをポケットにしまう。
茉璃は駆け足で灯台守の部屋へ戻り、二人を急かした。
透日は色褪せたテーブルクロスを裏返し、その上に持ってきた乾パンと水を置いた。
「今日は特別な日にしよう」
オシャレなケーキや豪華な夕食なんてないけれど。
「いいですね、先輩!お祝いましょう!」
「何を祝う?」
「もちろん、3人の出会いに祝いましょう」
風見鶏がぎしぎしと音を鳴らす。雲の流れが加速していった。