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「灯台守の日記だよ。日付が古いまま、途中で終わってる」
頭上には階段が、天井へ吸い込まれるようにして螺旋状に連なっている。どこからか風の音が聞こえてきた。
天辺まで到着した頃には、目が回りそうになっていた。そこは先ほどの部屋と違って四方ガラズ張りになっており、中央には変わった形の巨大なレンズが鎮座していた。
フレネルレンズは灯台の光をより遠くまで届けさせるために開発され、暗闇の中進む船の道しるべとなり続けた。
技術が発達し人々の意識が灯台から遠のいても、海から船が消えても。
「すごい、すごい!海キレイ!」
茉璃は景色の見晴らしの良さにばかり感動している。
もしこの空に雲がなく、青空と夕日を眺めることができたのなら、この上ない絶景だ。
透日の人生の中で一番濃密な時間が溶けていく。
たった半日の出来事、信じられないほど。
ハルは、内側の世界は案外空っぽである、と言っていた。
本当にそうだろうか。透日とハルでは、過ごしてきた景色が違いすぎる。
「そろそろ出ようか」と透日が階段を降りようとすると茉璃が「お兄ちゃん、帰りたくない。ここに住みたい!」と言い出した。
ブカブカのズボンを握りしめ透日を力強く見上げる。
「え?ここに?」
「うん、私気に入った!ここに住む!」
「いや、流石に住むのは…」
静かで良いところだと思っているが、周りには文字通り何もないし、間違いなく仕事に支障が出る。