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底が見えない深い青に、思わず恐怖を感じた。
何百年、何千年もの間、そしてこれからも波は引いては返してを繰り返す。
人間がいても、いなくても。
自然の循環は絶えることなく、世界は周り続ける。
「ハルお兄ちゃん、あのシマシマの何?」
茉璃は崖の先にある黒と白の細長い塔を指した。
「あれはね、灯台っていうんだよ」
「灯…台?」
「そう。俺も詳しく分からないんだよね…。知ってることとしては、夜になると光るってことぐらいかな」
「そうなの?じゃあ夜まで待ってれば光るかな?」
「どうだろう?もう使われていないみたいだからね…」
「そっか…」
「せっかくだから、中に入って見ようよ」と透日が提案する。
近くまで来ると、かなりの年月が経っていることが一目で分かるほど、所々ヒビが入り、ペンキも剥がれ落ちていた。
灯台に入る扉の鍵は施錠されておらず、中にも当然誰もいない。入って見ると広々とした部屋があった。
机や椅子、クローゼットやベッドなどがそのままの状態で残されてある。
今にも生活する音が聞こえてきそうな、ここだけ時が止まっているかのような不思議な空間だった。
内側の世界ばかり気にして、外側にこんな場所があることに気が付かなかった。
「もう何十年も前に引退しちゃったみたいだね」
ハルは机に置かれた、干からびて色褪せたノートを開き、ボロボロになったページを慎重にめくる。