26
***
「海だ!ほら、見えるでしょう?あれが海です」
ハルの背中を追って、もう一歩丘の上に足を踏み出す。
青一色ではない。群青とも紺碧とも言える、自然が作り出した色。
産まれて初めて海を見た。
絶え間ない波音と潮風が、容赦なく二人を煽る。
茉璃は思わず尻もちをついてしまった。
「大丈夫?」とハルは心配そうに聞くが、「うん。平気」とすぐ起き上がる。
「すごい…。これが海…」
透日は水平線の奥を辿りづけた。
「この先には、もっともっと広い大地があって。想像もつかないほど、壮大な自然があるんだって。ニセモノじゃない、本物の自然」
ハルは彼の横に立って言った。
「…ねえ、何でハルはここに海があることを知っていたの?」
透日は波音にかき消されないように声を張る。
「本で読んだのを覚えていただけです。向こうには海がないので。いつか行ってみたいって、思っていたんですよ」
「え、そうなの?」
「はい。あそこは全て揃っているように見えて、実は空っぽだったりするんですよ。遠くから見ればキレイだけど、近くで見ると案外とっていうのと同じですね」
「はぁ、なるほど…」
3人はゴツゴツした岩場の、波の花が見えるところまで降りてきた。
茉璃は、落ちそうになるほど海面を覗き込み、透日は及び腰になりながら制止した。