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「これで6ヶ月分滞納していることになります。来週来て、払えないようなら強制執行とうい形を取らせていただきます」
反応がない。中は薄暗く一見留守のように思えるが、中には誰かしらいる、という事実は確定している。
どの時間帯であれば家にいるのか、家族構成、職業や支出を、予めデータとして出力されているからだ。
シロイドたちは常に監視し情報を集め、それを元に十部たちのような人間が各家を回る。
5分経ったところで、「この音声データは録音されています。後から聞いていない、という言い逃れはできません。ご承知おきを」と桜坂が念を押す。
一向に出てくる気配がないため、踵を返そうとしたとき、「あ、あのう…」とか細い声が聞こえた。
出てきたのは、初老の女性、正しくは初老に見えるほど老け込んだ女性、と言うべきか。
「これで足りますか…?」
差し出してきたのは、到底足りるはずがない数枚の紙幣だった。
「あの…。父が認知症になったみたいで…。けど私、来月から働く場所が決まったので、今月はこれで勘弁していただけますか…?」
「マーさん。事情はどうあれ、散々忠告していたはずですが?」
「えっと…、ごめんなさい。私にも立ち直る時間が欲しかったんです…。仕事をすれば、払えるようになりますから…」
「分かりました、…来月まで待ちます。いいですね?」
「はい。ありがとうございます。本当に…」
女性は外に出て深々と礼をした。
十部はやり取りを聞いて、桜坂の意外な一面を知った。規則に厳しく融通が利かないとばかり思っていた。