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「いや、大丈夫。危険だと思ったら呼ぶから、その時来てちょうだい」
桜坂が「それでいい?」と彼に確認する。
「はい、僕は全然構いません」
ー流石、桜坂さんだ
十部は口角を上げる。
シロイドはありとあらゆることを記録する。
サボっている姿を撮られ、それを後で注意されたら面倒だし、シロイドが張り付いている中、仕事をするのは正直やりにく。
それに、桜坂と二人きりという、この貴重な空間を壊したくない。
「…承知しました。では、合図を決めてください」
「私か十部君の声で、『助けて』と叫ぶ。私と彼の声は、インポートされているでしょ?」
「はい、桜坂クレン様と十部夏弥様の音声データは取得済みです」
「分かった。なら、十部君。急ぎましょう」
「はい、了解です」
シロイドたちは毎回、ここを危険区域だと言うが、十部にはそう映らなかった。
いるのは徘徊するのっぽな老人と、今にも力尽きてしまいそうな非力な子供たちだ。
十部はこの場所を通る度に、その男性とすれ違う。同じところをぐるぐる回っているようだ。まるで壊れたロボットのように。
もしかしたら、本当に機械仕掛けで動いているのではないか、とすら思っている。
桜坂は彼らのことを一切気に留めず、住所と部屋番号を確認する。
そして、「マーさん。こちら税務課のものですが。ドアを開けてもらえます?」と桜坂はアパートのインタ―ホンを鳴らすが、応答はない。