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ただ、たとえそれが殺人だと分かったとしても、誰かに報告する義務はないし、警察のように犯人を追うことはしない。
地道な作業に加え、時には凄惨な現場を目の当たりにしてしまうため、精神的な負担も大きい。
この業務は新人が担当する、という暗黙のルールがある。
十部は今年で3年目になるのだが、新人が入ってきても半年も経たず辞めて行ってしまうため、なし崩し的に彼が実質的なリーダーとなってしまった。
今回は代わりが入ってくるまで桜坂が担当することとなったが、彼の内心ではずっとこのままでいいと思っているに違いない。
両手にバケツ一杯の水を持つ、ボロボロの服を着た少女と一瞬、目が合った。
睨みつけたような表情をしていた。
確かに、自分が産まれた場所はたまたま内側だった。
しかし、裕福ではなかったから、必死の努力で成り上がった。
内側へ行きたいと思っているのであれば、何を犠牲にしてでもその権利を勝ち取るべきだ。
ーこんな所に住むなんて、死んでもイヤだね
十部は幼い頃の自分を思い出しながら、憤りを感じていた。
内側に産まれたから人生は安泰、ではない。
一定の学力に到達できない人や、最低限の仕事ができる能力がない人と認められたら、外へ追い出される可能性はある。
そこでも犯罪は起こるし、権力者の息子だから、という理由で罪が黙認されるときもある。
事件に巻き込まれいつの間にか加害者になってしまうこともある。
二人は住宅街の前まで差し掛かかった。
次第に人の姿が増えてきたところで、2台のシロイドが音を鳴らしながら近寄って来る。
「ここからは危険区域となります。我々も同伴いたします」
黒い仮面越しに、緑色のインタラクティブ信号とカメラのレンズが透けて見える。
それが何もかもを見抜いてしまいそうで、十部はそっぽを向いた。