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「十部君、さっきの角を右に曲がるべきじゃない?」
ただ一つ、誤算があるとしたら、この
「そう…だったかもしれません。調べてみます…」
ーこんな時にレヴィークルが故障するなんて
十部は眼鏡をかけ直し、「地図を出して」と声で機械に指示を出す。
専用の眼鏡やゴーグルをかけている人にしか見えない、グラフィック画面が宙に映し出された。
AR、VR技術は既に浸透しており、内側の世界のほぼすべてのものや役割はメタバースや仮想空間に移行されたり、AIなどに置き換わってしまった。
特に言語に関しては、100言語以上に対応できる高性能な翻訳機能が開発されてから、コミュニケーションの不和はなくなったと言っていい。
それは母国語で話した言葉をリアルタイムで翻訳しするだけでなく、音声をその人物の肉声に変換。
さらに、その時々の感情をAIが読み取り、蓄積された大量のデータベースから適切な表現を選び、細かなニュアンスまで相手に伝えることができる。
そのため、機械を通して会話をしているという違和感を感じさせない。
AIに全てを任せた方が正確だ。
今や言語を習得するという行為は、時間と費用を無駄にするだけだ、という考え方がほとんどである。
しかし、例外は常にある。
桜坂は、母国語に加えネイティブレベルのフリット語、トー語に加え、話者が激減し死語とまで言われるカナイ語をも操る才女だ。
「もういい。少し遠回りになるけどこっちから回りましょう」
翻訳機を通さず、流暢なフリット語で話す。
十部は「はい…」とだけ言い、目の前の地図を閉じた。
十部の母国語はカナイ語であるが、資源の少ない小さな国であったため財政破綻。統治という名の侵略を受け、彼が生まれた時には家族間であってもカナイ語を使う人はほとんどいなかった。