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「確かに、ここら辺の人たち背が低いよね。俺でも平均くらいだけど…。きっと茉璃ちゃんが向こうにいったらびっくりするよ」
「え、そうなの?みんなシロイドなの?」
「ハハ、そうだよ。みーんな大きいんだ」
それからハルと茉璃はすっかり打ち解け、他愛もない話をした。
透日もそれを聞いて楽しんだ。
ハルの言っている意味が分からないことも多かったが、日々の疲れを忘れ二人は彼の話にのめり込んだ。
もし両親がいたら、友達がいたら、こんな風に毎日が楽しいのだろう。
透日が時間を確認する。とっくに寝る時間は過ぎていた。
「茉璃、そろそろシャワーを浴びて寝よう」
「えー!まだお話しする!」
「ダメ、もう寝る時間だ」
茉璃は不満そうな顔をしながらも、部屋を出て浴室へ向かった。
節水のため、普段はシャワーのみ。給湯器はほぼ機能していないため、ぬるま湯しか出ない。
しかし、随分前から冬の季節になっても春と変わらない気温になりつつあるため、特に温まる必要はない。
「茉璃ちゃん、いい子だね」
「んー、たまに言うこと聞かないけどね」
「先輩たちの名前、なんだかカナイ語っぽいですね。響きが珍しいような」
「どうかな…気にしたことないよ」
「そうですよね。今は誰も使わないって聞きますし」
「うん。そうだね…」
母が"透日"と呼ぶ声を、一度も聞いたことがない。
産まれた瞬間には呼んでくれたと信じている。親子らしいことをできないまま、いなくなったのだから。
隅にポツンと置かれたたラジオに目をやる。家に出入りする何人かの男たちの一人が、忘れて行った。
流れてくるのは大抵音楽だった。
その中でも透日はピアノの独奏が好きで、それを聞くたびに辛い現実から逃れる事ができた。
美しいソプラノの歌声も、胸が熱くなるようなギターの爆音もいらない。
タイトルの意味は分からない。変わった言葉が使われていたこともあった。
もしかしたら、カナイ語だったのか。もはや確かめる手段などない。